洪水や渇水といった水問題への対応は,気候変動に伴う水循環の変動可能性の議論と相まって,まさに喫緊の課題となっている.水循環はその要素を降水,蒸発散,流出に大きく区分できるが,降水や流出の観測頻度と密度に比較して,蒸発散の観測は十分であるとは言い難い.したがって,蒸発散の実態把握を目的とした時空間分析や,数値モデルを用いた推定値の検証が困難となっている.そこで本研究課題では,蒸発散の推定値を出来うる限り観測値をベースに作成することを目的として,大気水収支法をGPS可降水量に適用し蒸発散量の推定可能性について検討した. 大気水収支法とは,ある領域をもった地表面を底辺とする大気柱に着目し,大気柱の水分貯留量の変化が,水蒸気の水平移流と降水および蒸発散で説明されるという理論に基づいて,蒸発散を求める手法である.本課題では,大気柱の水分貯留量としてGPS可降水量を用いる. 水蒸気の水平移流を移流モデルで表現できるか,その適用可能性について検討した.本課題では,空間方向約20km間隔,時間間隔3時間のGPS可降水量を,GPS観測及び気象観測に基づいて推定した.様々な空間間隔で移流ベクトルを算出したところ,100km程度の空間間隔であれば適切な移流ベクトルを推定出来ることが示された.しかし,推定された移流ベクトルと水蒸気の水平移流量の両者には,蒸発散量を推定する上では無視できない誤差が存在した.本研究課題では,移流モデルによって可降水量の水平移流量を推定する基礎的手法を確立したが,推定精度の向上がさらなる課題である.さらに,本手法による蒸発散量の推定値の検証方法を提示し本手法の有効性を示していく必要がある.
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