研究課題
挑戦的萌芽研究
河床形状の変化がほとんどない礫床河川である江の川(三次市尾関山水位・水質観測所)において,30 kHzの超音波を用いた河川音響トモグラフィーシステム(FATS)による流量と音響インテンシティー対雑音比(SN比)の連続計測を実施した.計測流量とSN比はそれぞれ,20~460 m3/sと15~40 dBであった.採水から求めた浮遊土砂濃度(SSC)は0~80 ppmであり,出水時の平均粒径は約0.03 mmであった.SSCと平均粒径から水中音響理論を用いて求めた粘性吸収係数は,0.023 dB m2/kg となり,FATSのSN比から推定された値よりやや小さかったが,この原因はSSCの横断分布が一様でないためであると考えられた. SN比の低下量は,理論通りSSCにほぼ比例していた(出水による浮遊土砂によるSN比の最大低下量は約20 dB).平均水深が1 m以下の低水時のSN比は水深の影響を受け,水深の低下とともにSN比は15 dBまで低下したが,約0.5 mまでは計測可能であった.また,低水時のSN比は日射による水温分布の影響を受け,日射により形成される水温分布がSN比を低下させることが分かった.ダムのフラッシュ放流における流量観測から,不均質な水温場が音波伝播に与える影響を調べた.その結果,冷たい放流水が作り出す不均質な温度場は,浮遊土砂と同等以上の音波の伝播損失を発生させることが明らかになった.10kHz-FATSによる計測は,トランスデューサー ハウジング内への漏水のため準備が遅れているが,デルリン一体成形のハウジングを新に製作し,損傷したプリアンプの修理も完了して予備実験を開始している.
2: おおむね順調に進展している
30 kHzの音波による計測は順調で,音波減衰に対する水深の影響(導波管の遮断周波数との関係で説明可能)や浮遊土砂濃度による音波の粘性損失を定量的に明らかにできた.10 kHzのトランスデューサー ハウジング内への漏水によりプリアンプが損傷したため,10kHz-FATSによる計測が遅れているが,漏水対策とプリアンプの修理も完了して予備実験を開始している.
順調に進展している30 kHzの音波による計測と同時に10 kHz音波による計測を実施し,浮遊土砂の濃度とともにその平均粒径を推定し,高精度なウォッシュロード連続計測の実現に繋げる.また,河川横断面を導波管として伝播する10 kHz音波減衰に対する水深の影響(水深で決まる遮断周波数)を明らかにする.
消耗品費(100,773円):採水と試料分析のための消耗品(採水チューブ,ろ紙,ろ過瓶など),電子パーツ,トランスデューサーハウジングの固定治具費.謝金(400,000円):観測補助や採水試料分析を行う研究協力者への支払い.旅費(800,000円):調査・資料収集や国内外における研究成果発表のため.その他(170,000円):FATSの現場設置工事費として70,000円,学会投稿料として100,000円の支出を予定している.
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Measurement Science and Technology
巻: 24 ページ: -
10.1088/0957-0233/24/5/055303