研究課題/領域番号 |
24656296
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川西 澄 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40144878)
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キーワード | 水工水理学 / 浮遊土砂 / ウォッシュロード / 音響トモグラフィー / 音響インテンシティー |
研究概要 |
前年度に引き続き,河川音響トモグラフィーシステム(FATS)による流速・流量と音響インテンシティー対雑音比(SN比)の連続計測を礫床河川である江の川(三次市尾関山水位観測所)で行うとともに,太田川高瀬堰貯水池において,計画していた10 kHzと30 kHzの2周波実験を開始した.高瀬堰貯水池両岸のトランスデューサー間の直線距離は620 mで江の川のトランスデューサー間の直線距離296 mの約2倍である. 江の川では,前年度の460 m3/sより大きな700 m3/s程度の出水まで計測に成功した.採水分析から求めた浮遊土砂の50%粒径D50は前年度の結果と同じ約0.03 mmで,SN比の低下量は浮遊土砂濃度(SSC)にほぼ比例していた. 高瀬堰貯水池の実験では,低水時の高瀬堰の操作による水位低下によるSN比の低下が見られ,水深が音波の波長の10倍より小さくなると,音波の伝播損失が著しく大きくなることが明らかとなった.水位変動にともなうSN比の変動幅は非常に大きく,10 kHzで10~35 dB,30 kHzで5~30 dBであった.太田川流量が820 m3/s,観測地点のSSCが102 ppmの出水時,10 kHz音波に対する30 kHz音波の伝播損失は約2倍で,この結果から推定した浮遊土砂の平均粒径は0.03 mmであった.これは,採水分析から求めた浮遊土砂のD50 =0.02~0.04 mmとほぼ一致することから,良好な結果が得られたと考える. 水深が浅い(音波の波長の10倍程度より小さい)場合,音波の伝播損失に与える水深の影響が非常に大きいことから,水深が約5メートルあり,非常にSSCの高い中国銭塘江で実験を行い,音波の伝播損失が浮遊土粒子(D50 = 0.004 mm)による粘性吸収から予想される理論値とほぼ一致することを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度開始した10 kHzと30 kHの2周波実験は,おおむね順調で,2種類の周波数の音波を同時に用いることにより,浮遊土砂の粒径推定の可能性が確認できた.ただし,計測システムとトランスデューサーの設置方法に一部不具合があり,出水時における十分なデータを取得できなかったので,これらの点を改善して目的を達成する.
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今後の研究の推進方策 |
計測システムとトランスデューサーの設置方法における一部不具合を改善し,前年度に引き続いて,10 kHzと30 kHz音波の2周波実験を継続する.濁度の高い出水時におけるデータを中心に収集し,伝播損失係数(粘性吸収係数)比から平均粒径を推定する.さらに,水深が波長の10倍以下の場合,浮遊土砂濃度に関係しない音波減衰が顕著となることが判明したことから,より高い周波に対応するためのシステムの改良と58 kHzの高周波数実験を追加し,水深の小さな場合における良好なデータの取得を試みる. 以上の方策により研究目的の達成に必要なデータを取得する.得られた粒径情報から伝播損失係数を算出し,受信波の音響インテンシティーから断面平均浮遊土砂濃度を推定する.この浮遊土砂濃度データと,同時に計測される断面平均流速・流量を用いて,高精度なウォッシュロード計測の実現を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
計測システムとトランスデューサーの設置方法に不具合が見つかり,本研究に必要な出水時における十分なデータを取得できなかった.これらの問題への対応に時間を要したため,予定していた研究費の一部が未使用となった. 次年度研究費の使用計画は以下の通りである. 消耗品費(901,324円):システム改良のための電子パーツ,トランスデューサー,トランスデューサーハウジングおよびその固定治具費,採水と試料分析のための消耗品(採水チューブ,ろ紙,ろ過瓶など). 謝金(250,000円):現地実験補助や採水試料分析を行う研究協力者への支払い.旅費(500,000円):調査・資料収集や国内外における研究成果発表.その他(250,000円):システムの現場設置工事費と学会投稿料
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