本研究では,持続可能な道路交通システムのための2つの新しい制度を提案し,それぞれの長所と短所を明らかにした.具体的には,第1に,持続可能な交通配分を「道路網全体からの環境負荷(温室効果ガスの排出)が許容範囲内に収まり,かつ道路網全体の総旅行時間が最小となるような交通配分」と定義した.第2に,複数車種が存在する枠組の下で,持続可能なシステム最適(SSO: sustainable system optimal)配分を求めるための問題を定式化した.第3に,このSSO配分を自律分散的に実現する制度として,1) 進化的環境料金制度と 2) 走行排出権取引制度という2つの新しい制度を提案した.ここで,前者は「各リンクの利用者に,環境負荷に応じた料金(環境料金)を賦課し,この料金を,観測されるリンク交通量に応じて日々更新する」制度である.後者は「各リンクの利用者に,当該リンクの走行に不可避な温室効果ガスの``排出権''を事前に購入することを義務づけ,この排出権の価格が需給バランスによって決定されるような完全競争市場を整備する制度」である.最後に,それぞれの制度が,持続可能な交通配分を自律分散的に実現する-----すなわち,それぞれの制度の下で,局所的情報に基づいて利己的に行動する道路利用者の集団ダイナミクスが,持続可能な交通配分へと大域的収束する-----ための条件を明らかにした.具体的には,まず,SSO配分を自律分散的に実現するような進化的環境料金が存在し,それを決定づける唯一のパラメータが,日々観測される交通量のみに基づいた手続きによって求められることを示した.次に,日々観測される交通量に基づいて各車種・各リンクの必要排出権を決めることで,排出権取引制度の下でSSO配分が自律分散的に実現することを示した.
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