研究課題/領域番号 |
24656310
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
牧野 育代 東北大学, 環境保全センター, 助教 (00542060)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 夜間計測 / 夜間生態環境 |
研究概要 |
本研究は,多くのダム貯水池で運用されている日中に取水する現状のシステムから,夜間に取水するシステムに切り替えることで,主に光合成藻類で形成されているアオコによる水質被害を軽減する良水取水システムを発案するものである.研究1年目である平成24年度では,以下のことが明らかとなった. 1.現地調査のサンプルを分析した結果,平成24年度に対象地で発生したアオコの構成種はMicrocystis属,Anabaena属,Phormidium属で,そのうちMicrocystis属が95%を占めていた. 2.アオコは河川水が流入する水深0m~5mを維持する浅瀬で形成され,水深5mを維持する表層で最大規模に達した.水深5m以上を維持する地点ではアオコが減少していった.水深60mを維持する湖心の夜間観測において,表層水からは検出されなかったが水深15m~20mからはDNA解析によりMicrocystis属が検出された.対象地ではMicrocystisが95%を占めていたことをあわせて考えると,アオコは少なくとも夜間に15mは沈降することが明らかとなった.ただし,浅瀬においてはこの限りではなく,昼間と比べ量は減少しているものの夜通し表層に漂うアオコを確認した. 3.アオコは午前5時過ぎから徐々に表層に出没しはじめた.実験室でアオコの移動を計測したところ0.17mm/s~0.31mm/sでありアオコの量に伴う移動距離の増減を考慮すると,アオコの浮上は午前4時ごろから始まるものと考えられた. 以上より,夜間における取水のタイミングとしては,貯水池の水深を20m以上維持した状態で午後10時から午前4時にかけての取水が効果的と考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に計画していた有害アオコの夜間生態観測,培養試験,データ解析については順調に進んだ.しかし,予定としていたDNA解析については,連携研究者の予期せぬ退職により実験室では困難となったため,急遽外部委託して対応した.これによりアオコ構成種の同定はできたが,毒素・カビ臭および体内時間遺伝子の発現解析は予算の都合で見送った. また,平成25年度に予定していた水槽実験は,前倒しして平成24年度から行っており,順調に結果がでている.太陽光が十分にあたる場所に設置した水槽に平成24年8月~9月に観測地点で採水したアオコを含む湖水を投入し観察を続けており,Anabaena 属とPhormidium属は約1月後に顕微鏡での確認がほぼできなくなったが,Microcystis属は12月中旬まで量も色も維持した後,白いスラム状態に変化して水槽の底に沈んだまま越冬し3中旬から光合成が活発化をはじめ約1週間かけて徐々に再び緑色になるが,浮上するのはその一部だけであることを発見した.採取して水槽に投入して以降は純水を継ぎ足す程度であり栄養塩類の添加もしていないことを考えると,少なくともMicrocystis属にとってその活性化にまず必要なのは光である可能性が高い.このことは,もはや窒素やリンの流入を制限するだけではアオコ構成種の発生は防げないとこを意味しており,良水の確保に夜間の取水システムを取り入れる有効な結果を示すものであった. 本研究の将来像は夜間帯の観測の有効性を明らかにしその学術基盤を築くことであり,その意味で平成24年度の上記の発見は大変大きなものであったことから,おおむね順調に予定の一部を除きほぼ達成したと評価した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成25年度では,引き続き現地調査,生物試験等を行うとともに,得た実録データをもとに良水取水シミュレーションの作成に取り掛かる. 1.現地調査:対象貯水池と流入河川について月1回~3回程度.浅瀬のアオコの発生は湖心に対して顕著であった.このことから,対象貯水池のみならず,流入河川についても同じ調査頻度で加えることとした. 2.生物試験:アオコを形成している野生種について,水深,水質等の違いが成長に及ぼす影響について試験する. 3.良水取水システムの作成:夜間の良水取水システムを取り入れるには,水深15m以上の維持が条件の一つとなることがわかったが,水深が15m以下における条件が不明である.対象地では,水深0m~5mを維持する浅瀬の一部のアオコは終日沈まず浮いたままであった一方で水深80mを維持する湖心において昼間は表層に漂うアオコが夜間には水深15m~20m地点に沈降していた.浅瀬と湖心とのアオコの構成種は同じでありともにMicrocystisが優占種であったことを考えると,気象条件は同じなので,水深,粘度,拡散,流動機構等の違いがアオコの挙動と成長に影響を与えている可能性が高い.シミュレーションの数理方法としては反応拡散系を応用し鉛直方向の解を得る方程式の創出を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり,平成25年度請求額とあわせ,平成25年度の研究遂行に使用する予定である.
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