アオコ形成種であるMicrocystis属は日中は活発に有光層の範囲を鉛直方向に移動する。本課題ではMicrocystis属の夜間生態を解明して、アオコ形成種が水中深くに潜った夜間の時間帯を活用した良水取水システムの発案を目指した。1年半の夜間観測の結果、アオコは夜中でも鉛直運動をすることが認められた。Microcystis属のアオコの夜間生態は、予想していたよりも活発に鉛直運動を繰り返し、少量であらゆる水深に分布していた。ただし、8月~9月の夜間のアオコ塊は、深夜2時から4時はほぼ運動せず、一定の水深に留まっており、夜間においてもアオコの生態はアオコ形成初期、高密期、衰退期、消滅期ごとで異なることが予測された。 大小さまざまなアオコの塊は深夜4時過ぎあたりからゆっくりと浮上し、8時には多くが浮上して昼にはマット状のアオコを形成した。水面のアオコは午後2時ごろから分散を始め、午後4時には水面にまばらに漂うアオコが確認される程度にまで減少するサイクルが衰退期において毎日続いた。このサイクルのリズムは、Microcystisは光合成藻類であるので、走光性のみでは説明できない。つまり、日の光をキャッチするより以前にアオコの塊は浮上しはじめ、日が沈む前に沈降してゆくという現象からは、衰退期のアオコ塊の生理機能や、細胞の挙動を知る必要性が伺えた。 本研究期間では、アオコは夜間に沈み特定の期間では一定の水深に留まるという現象を捉えた一方で、具体的な良水取水システムの創出には至らなかった。そのシステムの創出には、(1)取水の最適時間を把握するためのアオコ鉛直運動の定量化、(2)アオコ形成種の代謝物の有害無害の把握とその水中への放出に関する試験調査、が課題として残った。
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