研究課題/領域番号 |
24656336
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山中 俊夫 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80182575)
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研究分担者 |
竹村 明久 大同大学, 情報学部, 講師 (70584689)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 嗅覚順応 / 応答関数 / 換気量 / 酢酸エチル / 体臭 |
研究概要 |
①嗅覚順応の特性を明確にするために、連続曝露させる酢酸エチル濃度をステップ変化させた場合の、臭気強度の時間変化と臭気曝露(曝露履歴) が臭気強度に与える影響について、パネルを用いた主観評価実験によって検討を行った。臭気はノズル吹き出しの空気をかがせ、臭気強度は、連続カテゴリー尺度を用いて、パネルに自記させる方式をとった。その結果、いずれのパネルも、暴露開始からおおむね10分程度で臭気に順応し、嗅ぎはじめほど強さを感じなくなった。また、その減衰過程は指数的であった。 ②同様に、異なる二つの濃度値の酢酸エチルを順に暴露した。その結果、初めの暴露濃度が高濃度であるほど、後の暴露の臭気強度が低下することが判明した。 上記①、②の結果を合理的に説明するために、このような順応現象は、嗅覚閾値が一時的に上昇し、その上昇した嗅覚閾値から、ウェーバー・フェヒナーの法則によって臭気強度が決定されるという第一の仮説を立てた。さらに、酢酸エチル濃度の単位刺激に対して、嗅覚閾値の増加量が応答するという第二の仮説を立てた。この二つの仮説に基づいて、臭気強度の測定データを用いた最小二乗法によって、応答関数の二つの定数a, bを同定した。ここでは、各個人の臭気強度を求めるのではなく、数多くのパネルの臭気強度の平均値をもっとも精度よく説明できる応答関数を求めることを主眼とした。 三条件の濃度、13人のパネルから得られたデータから決定した応答関数を用いて予測した臭気強度の時間変化は、もともとの実験データを非常によく説明することができることが明らかになった。 さらに、この応答関数を用いた考え方を、人から発生する体臭に対して適用するために、在室者から発生する体臭を対象として主観評価実験を行ったが、その結果は非常にばらつきの大きいものであり、心理的な影響による個人差などが原因と考えられ、原因について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画の段階においては、ステップ変動下の嗅覚応答係数の誘導を目的として、体臭を代表する2-エチル-1-ヘキサノールと溶剤臭の酢酸エチルのステップ濃度変化時の臭気強度測定の結果から、単位濃度刺激に対応する、順応濃度変化の応答係数を導出する予定であった。2-エチル-1-ヘキサノールの濃度コントロールする場合の実験上の問題点により、今年度は、酢酸エチルを用いた実験しか行うことはできなかったが、様々な濃度での応答を測定し、濃度と係数との関係について、検討を行うことができた。パネルは10名を想定していたが、実際には12名のデータを得ることができた。パネルには相応の報酬(謝金)を支払う予定であったが、実験スケジュールの決定が遅れたため、補助金からの支出はできなかった(他の資金を使った。)。 用いた臭気の種類は1種類となったが、得られた成果は、予想以上のものであった。濃度の単位刺激に対する閾値増加量の応答関数を用いる考え方は、生理学モデルに基づくものではないが、建築の室内空間における嗅覚の順応を合理的に、かつ実務的に予測する方法は画期的であり、極めて実用性の高い手法であることが明らかになった。その意味で、当初の計画以上に進展していると評価する。 ただし、実際の人から発生する体臭に対しての評価実験は、困難が予想され、今後の研究計画について、さらなる検討の必要性が明らかになった。このことも、今後の研究計画を考える上で非常に重要な知見であり、その意味では決して研究の停滞ではなく、新しい展開に対する重要な示唆が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の成果をもとに、検討している今後の推進方策は以下の通りである。 ①酢酸エチルを用いた実験において、十分な検討を行うことができたため、用いる単一物質による臭気は、芳香を対象とすることを検討する。 ②実際の体臭を用いる実験では、パネルの心理的特性などによるばらつきが大きく、実験装置の臭気との区別も困難であることから、より多数在室者による実際の室での実験を検討する。より多数の在室者を用いることで、在室者によるばらつきを吸収し、より実際的な体臭を評価することができる。 ③主観評価の方法については、現状以上に良い方法は見つからないが、ISOで採用しているアセトンを基準臭として訓練する手法についての検討を行う。いくつかのサンプル臭をあらかじめ嗅ぎ、どの程度の臭気強度であるかについて、覚えさせる手法を試す予定である。その場合の対象臭気については、海外の研究者のデータとの比較を容易にするために、できれば同じアセトンを用いることにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究日の使途については、以下の通り。 ①芳香やアセトンの基準臭ボンベ ②流量制御の精度を向上させるためのフローメーター ③研究打ち合わせのための旅費 ④研究情報の収集のための旅費 ⑤被験者・パネルに支払う謝金(あるいは、謝礼の物品購入) ⑤濃度分析のための外注費用 などである。謝金の支払いが、実験前に予定をすべて決めないといけないため、なかなか実際の申請が困難であり、今後の謝礼の物品の購入を検討したいと考えている。
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