研究課題/領域番号 |
24656345
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 香織 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20322349)
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キーワード | 1999年トルコ北西部地震 / 1995年兵庫県南部地震 / 仮設住宅 / トルコ共和国 |
研究概要 |
今年度は、プレハブ型仮設住宅の開発途上国における建設と利用の実態を、有識者への聞取り調査及び現地調査に基づき明らかにした。具体的には、阪神淡路大震災で供給された応急仮設住宅が1999年トルコ北西部地震の被災者用仮設住宅としてトルコ共和国に移設された事業(以後、トルコ移設事業と略記)を対象として、この事業の計画・実施に中心的に携わった2名の技術者への聞取り調査、及び仮設住宅団地が移設されたトルコ北西部のアダパザル市での現地調査を実施した。技術者への聞取り調査では、トルコ移設事業の全体像を把握し、問題点やその対処について整理した。事業を実施する上で重要な検討項目として、①2国間での資源の分担、②搬送、③建設指導が指摘され、搬送中での資材の破損・紛失、限られた期間内へのトルコ人作業員への技術指導は移設事業を実施する上で主要な課題であることが明らかにされた。 トルコ移設事業ではアダパザル市内に、約1,100戸のプレハブ型仮設住宅が移設されたが、団地跡地及びその周辺において、アダパザル市職員の協力を得て現地調査を実施した。現在、団地跡地は民間事業者によってリースされ、栽培農園として利用されていた。一方敷地内には改造されたプレハブ型仮設住宅1棟が残存しており、移設当時から現在まで被災者が居住していた。その建物の使用状況・各部の劣化状況に関して、床の撓みや漏水痕がみられた一方、鉄骨フレームや外壁パネルは健全な状態を保っており、その一部が団地近郊の市民ホールにも転用されていたことも加味すれば、組立型のプレハブ型仮設住宅が持続的な利用において大きな可能性を持つことがわかった。 以上を踏まえ、プレハブ型仮設住宅の開発途上国への移設事業は、その遂行に多くの課題が伴う一方で、移設住宅の持続的な利用においては大きな可能性をもつことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度はの当初予定は、①研究の枠組みの設定、関連研究者・実務者間のネットワークの構築、②関連文献・資料の調査、③兵庫・東北調査、④アンケート調査:インドネシア・スマトラ島沖地震、トルコ北西部地震を対象 ①~④は概ね当初予定どおり終了し、④の結果に基づき以降はトルコ北西部地震を主な対象とすることとした。 平成25年度の当初予定は当初予定どおり、⑤トルコ現地調査、⑥東北調査、を実施した。ただし、⑤については当初は2団地を現地調査する予定でいたが、アダパザルにある1団地しか見つけることができなかったため、1団地とした。さらに、⑥東北調査は継続的に実施しているが、まだ仮設住宅の解体が本格的に始動していないため、継続的に調査を続けていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、過去2年間の文献・聞き取り調査の結果をもとに台湾へのプレハブ型仮設住宅の移設事業を新たな調査対象として、トルコ移設事業との比較・分析を通じて、開発途上国におけるプレハブ型仮設住宅の持続的利用における問題点とその可能性を明らかにする。 1999年台湾・集集大地震の被災者用の仮設住宅として、我が国から約1,000戸のプレハブ型仮設住宅が移設されたが、その後の利用実態を追跡した試みはみられない。来年度はトルコの調査と同様に、移設されたプレハブ型仮設住宅の現在までの利用状況に関する調査及びその事業に関わった有識者への聞取り調査を実施し、事業の全体像と問題点を明らかにする。台湾はトルコと同様に鉄筋コンクリート造とレンガによる躯体構法が一般的に普及しており、プレハブ技術が十分に浸透していない。一方で、台湾はトルコと異なり高温多湿性気候のため、建物の劣化状況も大きく異なることが予想される。 以上の与条件を整理した上で、トルコ・台湾のそれぞれの移設事業を、①コスト・②環境負荷・③対象国からの各種資源の寄与・④再利用性の4点から評価を行い、2つの対象事業を比較・分析する。さらに、得られた知見に基づき、移設されたプレハブ型仮設住宅の再利用性を高める、すなわち持続的利用を促すための技術的・制度的方策を提示する。具体的には、供給戸数・現地での用途に応じた適正な工法の調整・2国間での費用負担を考慮した移設手法を提示する。最後に、東日本大震災で供給されたプレハブ型仮設住宅を対象としてシミュレーションを行い、上記の方に従って最適な移設手法を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では、東北地方への現地調査をより多く予定していたが、予備調査の結果応急仮設住宅で解体・移設されたものが多くなかったため、次年度の旅費として使用することとしたため、20万円ほど残額がでた。 次年度は、前述のとおり東北地方での現地調査および、台湾の現地調査に本年度の残額を当てる予定である。
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