研究課題/領域番号 |
24656354
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐藤 滋 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60139516)
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研究分担者 |
久保 勝裕 北海道工業大学, 空間創造学部, 教授 (90329136)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 山当て / 城下町都市 / 殖民都市 |
研究概要 |
2カ年計画の初年度である平成24年度の研究実績は、以下の通りである。 第一に、GISおよびGPSを活用した「山当てライン」の精密な測定方法を構築した。これらは、申請者らが継続的に各種の研究活動を実施してきた山形県鶴岡市を対象に試行したものである。まず、現地での目視調査によって「現象としての山当て」を発見した上で、測定の対象とする道路(以下、対象道路)と眺望の対象となる山(以下、対象山)の、各々の座標を特定する方法を設定した。具体的には、対象道路における「視点場」と「道路中心点」、および対象山の「山頂座標」を決定する方法である。次に、これらの座標を用いて、GISによって山当てラインと対象山の関係を分析できる方法を構築した。一般に公開されている各種の座標付きベースマップデータの精度を確認した上で、「ARK-GIS」を活用することで高い精度が期待できることを確認した。また、本研究で購入したD-GPSを用いた実測を試行し、GISデータとの比較から、その精度を確認した。 第二に、上記の方法に基づいて、新潟県村上市、岩手県盛岡市、熊本市などの城下町都市を対象に、主にGISを用いた山当てラインの分析を実施し、その存在を再検証した。 第三に、北海道の殖民都市を対象とした調査分析を並行して実施した。まず、明治期に北海道が発行した「殖民公報」を基礎資料として、全道の官設グリッド市街地を網羅的に把握し、殖民地区画図を収集した。次に、これらの資料と、上記の方法を用いて、北海道の三大都市計画と言われる旭川市、帯広市、滝川市を対象とした山当てラインの分析を行い、その存在を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究計画では、(1)城下町都市においては、山当ての精密な測定と事例都市での山当て意図の分析、(2)殖民都市においては、市街地区画図の収集と復元図の作成、を目標としていた。 全体的には、GISおよびGPSを用いた測定方法の確立に時間を要したが、城下町都市と殖民都市の双方において概ね予定通りに進んでいる。 (1)の城下町都市については、計測方法の構築を図りつつ、鶴岡市を対象とした「現象としての山当て」に対する精密な再検証が実施できた。また、これを基にして、村上市、盛岡市、熊本市、さらには鹿児島県内の小城下町都市を対象とした調査分析に展開できた。山当て意図の解明については、これら調査の過程で様々な議論が行われ、仮説的にではあるが整理が進んでいる。なお、鶴岡市における調査分析の結果は、『GISを用いた城下町都市における道路中心ラインと山頂の位置関係に関する検証-山形県鶴岡市を対象として-』として、今年度の日本都市計画学会学術論文集に投稿した。 (2)の殖民都市については、概ね目標を達成できたものと考えている。官設市街地の把握および資料収集も予定通りに進み、上述の3都市の他にも、札幌市、東神楽町、広尾町、真狩村等を対象としたGISデータを用いた山当てラインの測定を実施できた。これらにより新しい山当てラインの発見もあり、研究成果は十分にあったものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度においては、当初の予定に基づいて研究を進める。 第一に、城下町都市と殖民都市の両者で、事例都市を対象とした主にGISを用いた山当てラインの計測調査を継続する。対象は、前者では鶴岡市、村上市、盛岡市、熊本市などを予定している。後者では札幌市、帯広市、広尾町、真狩村などを想定しているが、城下町都市に比べて研究の蓄積が少ないため、新たな対象都市も模索する。この中で、精度が高い座標付きベースマップが存在しない小規模都市を対象とした、主にGPSを用いた調査も想定している。 第二に、城下町都市と殖民都市の比較分析による山当ての「意図」の読み取りを行う。両都市における山当ての実態を比較分析し、同質性や差異を解明することにより、山当てのデザイン上の意図を明らかにする方法論を開発する。現段階では、山当てラインの精度が高いこと(計測調査より)、複数の山当てラインが存在すること(1つの対象山への複数ライン、など)、他の景観要素と景観軸を形成していること、対象道路や対象山が都市や地域で特別な意味を持った存在であること、等からその意図を明らかにすることを考えている。 城下町都市では、一般的に、街路からの仰角が抑えられて正面の山が威圧的にならないように山当てが計画される。しかし、それに該当しない例も散見されることから、城下町建設当時の沿道の土地利用の実態や、現地の気候風土等を加味した考察が必要であると考えられる。殖民都市の場合は、意図の読み取り以前に、意図された山当てか否かの見極めが重要になる。グリッド状の官設市街地は、広域的な農耕グリッドの中に埋め込まれたものが大半であり、当時の道路計画の方向性はその影響下にある。また多くが等間隔であるため、偶然に山当てラインが形成された可能性もある。市街地形成期の文献調査がより重要になると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は現地調査に基づいた分析が中心であり、平成25年度における研究費の使用については、当初の予定通り、主に国内旅費および研究補助に対する旅費・謝金の支出を予定している。 国内旅費は、まず、研究代表者による城下町都市の現地調査を予定している。対象は、鶴岡市、村上市、盛岡市、熊本市、鹿児島市周辺などである(60千円×6回=360千円)。同様に、研究分担者による殖民都市への現地調査も5回程度を予定している(30千円×5回=150千円)。対象は、帯広市、広尾町、真狩村などである。いずれも、各2日程度を想定している。 謝金等については、研究協力者および研究補助をお願いする学生への支出を予定している。本研究では、GPSを用いた現地での測定を行う対象都市もあることから、研究代表者と同分担者の現地調査に、それぞれ2回の同行を想定している(60千円×2回=120千円、30千円×2回=60千円、計180千円)。さらに、GISを用いたデータ入力作業などの補助が必要であり、謝金の支出を予定している(15千円×2名×7月=210千円)。 その他、消耗品に50千円、印刷製本費等に50千円の支出を予定している。
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