本研究課題は、『正倉院文書』「造石山寺所関係文書」を対象とし、奈良時代の寺院の建造工程(計画、施工、労働状況など)の解明と、竣工した建築物の復原を試みるものである。研究の段階として、1:史料や帳簿の整理、2:工程や竣工像を踏まえた検証とに分けられ、本年度は後者にあたり、昨年度に整理した部材種類ごとの記録シートをもとに各部材を比較して「桁」を対象に復原を行った。史料に見られる「桁」は、「方五寸桁」や「七八寸桁」など断面寸法によって区別されて呼称されているが、正確な使用箇所を反映させた名称ではなく、横架材一般の総称として表されている。実質的には、桁以外にも、梁、頭貫、根太、大引などが含まれており、比定が比較的困難であるため、以下の点を考慮して復原を進めた。 1) 寸法値の妥当性:部材寸法のうち、長さについては、仏堂は一丈等間の五間四面堂であることから検証した。また断面寸法は、同時代の類例遺構との比較を行った。 2) 工程からの検証:部材情報は、石山寺の現場から山作所への作製指示、収納が遅れる場合の催促、陸運や水運による搬送、現場での収納と、いくつか場面において記録された。すなわち、工事の進捗状況に則した記録があることになるため、工程と横架材の使用箇所とを考慮して材の比定を行った。また、釘の制作および供給状況も併せて参考とした。 3) 他建築との比較:同時期に工事が進んでいた僧坊等へも「桁」材は供されている。上記の寸法値や工程の検証に、並行して造営された建築分への供給状況も考慮した。 4) 転用材の可能性:本造営は、もとあった五間二間の堂を拡張する改修工事であり、特に平面規模としては前身堂は竣工堂の身舎部分にそのまま相当する。そのため、前身堂における横架材の寸法値や員数を想定し、改修時に転用された可能性を加えて考察を行った。 以上の考察の結果は、2014年度学会発表論文として投稿した。
|