研究課題/領域番号 |
24656363
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研究機関 | 大阪芸術大学 |
研究代表者 |
奥 佳弥 大阪芸術大学, 芸術学部, 准教授 (20268577)
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研究分担者 |
笠原 一人 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 助教 (80303931)
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キーワード | モダニズム / オーセンティシティ / オランダ / ベルギー / 保存 / 再生 |
研究概要 |
主な研究対象とする1920 年代から1960 年代のモダニズム建築のうち、特に史的評価が高くまた保存状態の優れた事例について、その保存、修復あるいは改修について報告・分析する文献資料を収集・整理、国内および海外調査に必要な準備資料を作成した。同資料に基づきオランダ、ベルギー、日本等における主要事例について現状を確認・調査すると共に、保存・再生に至るまでの経緯など事実関係を知りうる資料・文献を現地調査・収集した。 当該年度は、ベルギーにおける最近の保存・改修事例であるLeuvenのGroot Begijnhof地区、Campusbibliotheek Arenbergほかについて見学・調査した。オランダでは、デルフト工科大学所蔵の関連資料収集を行うと共に、Schroderhuis、Van Nelle fabriek、Rietveld Academie等の保存・活用事例を調査した。国内事例に関しては、京都府立鴨沂高等学校、 大丸心斎橋店, 大阪歌舞伎座ほか、最近解体が決定、あるいは今後の保存の在り方が問題となっている事例を中心に見学・調査した。 今年度の調査により、同じ世界遺産でもSchroderhuisでは、オリジナルの材料は取替えても、デザインのオーセンティシティを維持しようとしている一方、Groot Begijnhofでは、増築部分でオリジナル部分のオーセンティシティを損なわない繊細なデザインを加えていることが確認された。またVan Nelleでは、元工場をオフィスに改修しているが、モダニズム建築特有の全面ガラスのファサードを損なわないよう室内設計することで、オーセンティシティへの配慮と維持がなされている。これに対し、日本ではオーセンティシティの概念そのものが検討されておらず、特に材料のオーセンティシティへの意識は低く、レプリカを作ることも厭わない様子が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オランダ、ベルギー、日本等における主要なモダニズム建築の保存・再生事例に関して、可能な限り資料収集し、相当数の事例について現地見学・調査を行うことができた。特にベルギーにおけるモダニズム建築の保存・再生の事例調査にも、オランダの保存・再生・活用事例と共通してかなり自由度があるもの、また街並み全体を保存しながらも単なる凍結保存ではなく施設として活用する事例が少なからずあることが確認された。 今年度の事例調査により、日本と比較してオランダだけでなくベルギーにおける保存・再生の手法もまた多様で、史的評価の高い建築でさえ、必ずしも材料等のオーセンティシティのみに拘らない事例が存在することが確認された。引き続き調査が必要だが、モダニズム建築におけるオーセンティシティの在り方を検討する有意義な調査・資料を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
国内外におけるモダニズム建築の保存・再生事例に関する文献・資料の収集・調査を継続するとともに、日本国内の主要事例について共同で現地調査を実施する。 海外資料収集・事例調査についても、引き続きオランダを中心とした欧米の主要事例について共同で現地調査を行い、現状を確認するとともに、保存・再生にいたるまでの議論や実施の経緯を知りうる記録文書や資料(新聞・雑誌・公式サイトなど)の調査・収集をする。また、必要に応じて関係者のインタビュー調査を行う。 特にオランダについては、同国におけるモダニズム建築の保存・再生の手法の多様性と各事例におけるオーセンティシティの捉え方の関係に注目し、日本や他の欧米諸国の事例と比較しつつさらなる検討・考察を進めたいと考えている。 当該研究に必要な近代建築関連図書(オランダを中心に、比較対象となる欧米、日本のモダニズム建築の保存・再生に関連する文献・資料)のさらなる充実のため、文献・雑誌資料購入を予定している。消耗品については、データ保存・出力・管理・運用、ファイリングに必要となるメモリー・カード、プリンタ-インク/トナー、A4ファイル等の購入を予定。 前年度に引き続き、代表者と分担者による対象事例、関連団体、制度等に関する現地資料収集および現状調査を予定しており、国内調査旅費(@50,000程度×2名分)および海外調査旅費(オランダ-日本往復渡航費@150.000+宿泊費@10.000程度×14泊程度×2名分)の使用を計上している。また、海外(オランダを主とした欧米)および国内で収集した資料(図面、写真・記録文書等)をデータベース化するため、資料のスキャナー取り込み、インタビュー録音のテープ起こし等の資料整理補助費(@0.95×4時間×10日程度×2名)、オランダ語資料の和訳を人件費・謝金として計上している。
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