研究課題/領域番号 |
24656367
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 好一 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20283632)
|
研究分担者 |
寺井 智之 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師(Lecture) (20346183)
|
キーワード | ホログラフィー / メスバウアー効果 / 相転移 / 強電子相関系 / マルテンサイト |
研究概要 |
核共鳴散乱を利用した原子分解能γ線ホログラフィーの実験を、57Feを用いたヘマタイト(Fe2O3)単結晶に対して行った。ヘマタイト単結晶の表面は(111)面であるが、測定されたパターンは4回対象であり、結晶の対称性を全く反映していないことが分かった。また、パターンの振幅は数10%程度と非常に大きく、このことはγ線ホログラフィーの理論では説明できない。このため、4回対称パターンの説明には、別の理論が必要になる。また、この4回対称パターンが他の試料に対しても出現するかどうかを確認するために、鉄の単結晶に対しても行った。しかしながら、4回対称パターンは確認できなかった。従って、ヘマタイトに特有の現象であると結論づけられる。核共鳴吸収は原子核の構造に起因する異方性があることが知られている。用いたX線は偏光しているため、この効果が表れたことが考えられる。また、ヘマタイトは反強磁性物質であるため、核のスピンが配向していることが考えられ、それが配向の原因だとも考えられる。 その他、形状記憶合金関連試料のTi50Ni42Fe8単結晶の蛍光X線ホログラフィーに関する研究も、本助成にて研究を行った。本試料は220Kを境に、parent相と呼ばれる高温相とincommensurate相と呼ばれる低温相が存在する。その両相の構造を、FeとNiの蛍光X線ホログラムを測定し、原子像を再生することにより求めた。ホログラムより再生されたFeとNi周辺の原子像には大きな違いがあり、高温、低温相の両方において、Fe周辺原子像は強く、Ni周辺原子像は弱く観測された。このことは、ドーパントであるFe周辺の局所構造が、母体であるNi周辺の局所構造よりも格子が歪んでいないことを示している。また、両方とも温度の違いによる原子像の変化が観測され、incommensurate相に特有の構造の特徴が見いだされた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観測された4回対称パターンについて、やや理論的な考察が進んだと考えている。一方で、その理論考察が完全な理解に至っていないことから、新しい実験などは行っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
実績概要の部分で述べた4回対称パターンを十分に理解した上で、その効果をパターンから差し引き、純粋なγ線ホログラムを取り出すアルゴリズムの開発を行う。その上で、散乱波の完全な位相情報を引き出せる複素ホログラムに関する研究も行う.本課題で製作するγ線ホログラフィー測定システムを用いれば蛍光X線ホログラムとγ線ホログラムが同時計測できる.電子散乱と核共鳴散乱の位相シフトが,それぞれπとπ/2であることを利用すれば,ホログラムの実部と虚部を両ホログラムから導き出すことができる.但し,電子散乱と核共鳴散乱の振幅が異なるため,それを補正するための係数等を導入したアルゴリズムを開発し,完全な複素ホログラムを求める.その複素ホログラムをベースにして,アーティファクトのない鮮明な原子像を得る.
|
次年度の研究費の使用計画 |
実験結果に想定と異なる大きな四回対称性が表れたために、この原因・原理を追求することが第一と考え、一時的に実験を中断したことによる。このため、実験に使用する予定だった機器や消耗品、及びSPring-8のビームタイム使用料を使わなかった。 次年度は、四回対称性パターンの原理を解明できると考えており、このことに基づき、純粋なγ線ホログラムを抽出するアルゴリズムが開発できると考えている。このため、本年度予定していたγ線ホログラフィーの実験を行うことも可能であるため、そのための機器や消耗品、SPring-8ビームタイム使用料も使用し、研究を遂行する予定である。
|