Fe2O3の(0001)から発せられる即発及び遅延蛍光X線の両者の観測を行った。即発蛍光X線は試料の結晶対称性を反映した3回対称性を示していたが、遅延蛍光X線は二回対称性を示していた。前者は、コッセル線も観測され通常の蛍光X線ホログラムと同じと解釈される。一方、後者の二回対称性については、メスバウアー効果が効いているために、核磁気の異方性が関係していると考えた。入射X線が試料に垂直に入射された場合は、遅延蛍光X線の強度が弱くなる。これは、サンプル磁化ベクトルと光の磁場が一致し、M1遷移吸収プロセスが抑制されるためと考えられた。それに対し、試料に対する入射角が大きくなると、遅延蛍光X線の強度変化が大きくなり二回対称性が現れる。これは、サンプル磁化ベクトルがX軸と一致した場合に、吸収が最大となるためで、M1遷移の様子と一致する。試料の磁化ベクトルをZ軸に合わせた場合は状況が異なる。また、E2遷移についても検討したが、強度がM1成分よりもずっと小さくなることが判明し、E2遷移に起因する可能性は低いことが分かった。 蛍光記憶合金Ti50Ni42Fe8試料については、Fe及びNi周辺の原子像について詳細な解析を行った。添加元素であるFe周辺の原子像は強度も強く本来の位置に再生されていたが、Ni周辺の原子像は大きく歪んでおり、強いアーティファクがいくつか観測され、かつ、近接の原子像が内側にシフトしていた。ここでは電子密度波を仮定し、Ti50Ni42Fe8のモデルを立て理論ホログラムを計算し、原子像の再生を行った。その結果、Ni周辺の原子像の傾向を再現することができた。一方、Fe周辺の局所構造は安定しており、電子密度波の影響を受けにくいことが分かった。
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