研究課題/領域番号 |
24656371
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
荒河 一渡 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30294367)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 空孔 / 格子欠陥 / 電子顕微鏡 / タングステン / 高融点金属 |
研究概要 |
塑性変形・急冷・結晶成長・高エネルギー粒子照射等によって、原子空孔が結晶性材料中に過飽和に導入されると、しばしば空孔同士が会合し、ボイドなどの空孔の集合体を形成し、材料の機械的性質を著しく劣化させてしまう。集合体形成の要因は、空孔どうしの結合エネルギーが正であることにある。正の結合エネルギーは、これまでの材料科学の常識であった。もし空孔の結合エネルギーが負であれば、空孔どうしは反発し合い、集合体の形成は抑制されると期待される。そのような金属は存在しないのだろうか? 本研究では、最近の第一原理計算により空孔の負の結合エネルギーが予測されている高融点体心立方金属を対象にして、超高圧電子顕微鏡法により、負の結合エネルギーを実験的に検証することを目的とする。 高エネルギー電子照射下では、孤立した点欠陥(空孔および自己格子間原子)が生成される。したがって、電子照射下における点欠陥集合体の形成過程は、点欠陥の性質を反映したものになると期待される。本研究では、超高圧電子顕微鏡内での高エネルギー電子照射および点欠陥集合体形成過程のその場観察によって、空孔の結合エネルギーの正負に関する情報を得る。 平成24年度は、主に、第一原理計算によって空孔の負の結合エネルギーが予測されているタングステン及び正の結合エネルギーが予測されているタンタルを対象として、融点の0.3倍程度の温度域において2 MeV 電子照射を行い、空孔集合体の一種であるボイドの形成能を調べた。試料には、何れも99.9999%の高純度材を用いた。その結果、タングステンにおいてはタンタルにおいてよりも、生成されるボイドの密度が極めて低かった。この結果は、タングステンにおける空孔の負の結合エネルギーを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体心立方金属における空孔集合体の形態としては、ボイドあるいは転位ループが考えられる。現時点までに、第一原理計算によって空孔の負の結合エネルギーが予測されているタングステンにおいて、ボイドの形成能が低いという実験結果を得ることが出来た。これは少なくとも、第一原理計算の予測に矛盾しないものであり、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
第一原理計算によって負の結合エネルギーが予測されているタングステンにおいて、低密度であるとは言え、ボイドが形成された理由は、空孔の負の結合エネルギーの絶対値が小さければ、高温域においては熱揺らぎによって空孔同士が会合し得るためであると解釈できる。そのような熱揺らぎの効果を極力抑えるために、より低温域での空孔集合体の形成の可否を調べる。低温域では、点欠陥は転位ループとして集合しやすい。そこで、電子顕微鏡法により極小転位ループの型判定をおこなう技術を開発し、これを適用することにより、上記の目的を達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の使用計画は次の通りである。 消耗品(試料素材および真空フランジ):339千円 旅費(大阪大学超高圧電子顕微鏡センターへの実験旅費、研究成果発表):500千円 人件費・謝金(英文校閲):50千円 その他(研究成果投稿):50千円 繰越研究費 39千円は、主に24年度当初の消耗品の購入計見通しのずれにより生じた。これは、平成25年度の消耗品購入に充てる。
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