研究課題/領域番号 |
24656371
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
荒河 一渡 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (30294367)
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キーワード | 空孔 / 格子欠陥 / 電子顕微鏡 / タングステン / 高融点金属 |
研究概要 |
塑性変形・急冷・結晶成長・高エネルギー粒子照射等によって、原子空孔が結晶性材料中に過飽和に導入されると、しばしば空孔同士が会合し、ボイドなどの空孔の集合体を形成し、材料の機械的性質を著しく劣化させてしまう。集合体形成の要因は、空孔同士の結合エネルギーが正であることにある。正の結合エネルギーは、従来の材料科学の常識であった。もし空孔の結合エネルギーが負であれば、空孔同士は反発しあい、集合体の形成は抑制されると期待される。そのような金属は存在しないのだろうか?本研究では、最近の第一原理計算により空孔の負の結合エネルギーが予測されている高融点金属を対象にして、超高圧電子顕微鏡法により、負の結合エネルギーを実験的に検証することを目的とする。 本研究では、超高圧電子顕微鏡を用いて、高エネルギー電子照射による点欠陥生成場における点欠陥集合体形成過程のその場観察を行い、空孔の結合エネルギーの正負に関する情報を得る。 平成25年度は、第一原理計算によって空孔の負の結合エネルギーが予測されている高純度タングステンおよび第一原理計算によって正の結合エネルギーが予測されているタンタルを対象として研究を進めた。タンタルは電子ビーム熔融によって高純度化をおこない、両金属における純度をほぼ同程度にした。広い温度範囲で 2 MeV 電子照射を行い、空孔集合体の一種であるボイドの形成過程を調べた。融点で規格化した複数の温度において、両材料中におけるボイド密度の点欠陥生成量依存性を比較した結果、実験を行った全ての温度において、タングステンにおけるボイド形成能が顕著に低いことが明らかとなった。また、タンタルにおけるボイド密度の温度依存性は単調であったのに対して、タングステンにおけるそれにはアノマリーが見いだされた。これらの結果は、タングステンにおける空孔挙動の特異性を示すものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現時点までに、第一原理計算によって空孔の負の結合エネルギーが予測されているタングステンにおいて、広い温度範囲にわたって空孔集合体であるボイドの形成能が低いという、空孔の負の結合エネルギーを示唆する実験結果を得ることができた。さらに、ボイド密度の電子照射温度依存性におけるアノマリーを見出すことができた。これは、研究開始以前には予期していなかった、空孔挙動の特異性を反映した重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにタングステンおよびタンタルについて、融点の0.2-0.35倍程度の温度範囲での高エネルギー電子照射およびボイド形成過程の観測をおこなった。今後は、更に低温にまで測定の温度範囲を拡張する。また、ハフニウム-タンタル等の合金へも実験を拡張する。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越金は、消耗品の購入見通しのずれにより生じた。これは、今年度の消耗品購入に充てる。 研究費の使用計画は次のとおりである。消耗品(試料素材および真空フランジ)、旅費(大阪大学超高圧電子顕微鏡センターへの実験旅費、研究成果発表)、人件費・謝金(英文校正)、その他(研究成果投稿)。
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