塑性変形・急冷・結晶成長・高エネルギー粒子照射等によって、原子空孔が結晶性材料中に過飽和に導入されると、しばしば空孔同士が会合し、ボイドなどの空孔の集合体を形成し、材料の機械的性質を著しく劣化させてしまう。集合体形成の要因は、空孔同士の結合エネルギーが正であることにある。正の結合エネルギーは、従来の材料科学の常識であった。もし空孔の結合エネルギーが負であれば、空孔同士は反発しあい、集合体の形成は抑制されると期待される。そのような金属は存在しないのだろうか?本研究では、最近の第一原理計算により空孔の負の結合エネルギーが予測されている高融点金属を対象にして、超高圧電子顕微鏡法により、負の結合エネルギーを実験的に検証することを目的とする。 本研究では、超高圧電子顕微鏡を用いて、高エネルギー電子照射による点欠陥生成場における点欠陥集合体形成過程のその場観察を行い、空孔の結合エネルギーの正負に関する情報を得る。 本年度は、第一原理計算によって空孔の負の結合エネルギーが予測されている高純度タングステンおよび第一原理計算によって正の結合エネルギーが予測されているタンタルを対象とした研究を進めた。昨年度までに、タンタルにおける電子照射誘起ボイドの体積密度の温度依存性は単調であるのに対して、タングステンにおけるそれにはアノマリーが存在することを見いだしている。本年度は、ボイドの体積密度をより精密に計測する方法を検討し、実験データの精密化をおこなった。研究協力者であるフランスCEA-Saclayのグループとの連携によって、実験データにおけるアノマリーを説明し得る空孔の特異挙動が明らかになりつつある。また並列して、第一原理計算によって空孔の負の結合エネルギーが予測されている合金であるハフニウム―タンタル合金の作製および実験を行った。
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