本研究では、マルチフェロイックであるBiFeO3薄膜を化学溶液体積(CSD)法により成膜した時の異相生成機構について組織的観点から研究を進め、異相の生成抑制条件を検討し、高分解能TEMを活用したリーク機構の解明を目指した。CSD法により膜を積層するごとに窒素雰囲気中550℃で本焼を行ったところ、SrTiO3(001)上にエピタキシャル成長させたBiFe0.97Mn0.03O3単相薄膜(以下BiFeO3相)が得られた。しかし、窒素雰囲気中10分間ポストアニールを行うことで配向性が向上したが、Bi2Fe4O9相が生成し、BiFeO3相に対し特定の配向関係を保って成長した。Bi2Fe4O9相は膜表面近傍で生成しやすく、自形を保って成長することが分かった。これに対し、酸素雰囲気中650℃以上でポストアニールを行うことによって、巨大なBi2Fe4O9相を中心とした島状組織を形成したことから、酸素中ではBiFeO3の分解反応が促進されたことが示唆される。Biが10%過剰の溶液を用いてBiFeO3を成膜することで、Bi2Fe4O9の生成を抑制することができた。この様に、Biリッチ組成で窒素雰囲気ポストアニールすることでBi2Fe4O9の生成を抑制できることが明らかになった。電子顕微鏡による組織解析より、BiFeO3相とBi2Fe4O9相の粒界構造を調べたところ、原子レベルで急峻な界面であった。また、HAADF-STEM観察により薄膜/基板界面直上には、Bi2O3と考えられる極薄層が形成されることが分かった。この結果から、ポストアニール時に薄膜表面のBiFeO3相が分解し、Bi酸化物が基板界面へ向かって拡散し、Bi2Fe4O9相が表面から基板界面に向かって成長すると推察される。この際、形成される柱状組織における柱状粒界が、薄膜に垂直に配向しており、リーク電流パスとして働くと考えられる。
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