研究課題/領域番号 |
24656374
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
雨澤 浩史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90263136)
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研究分担者 |
八代 圭司 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (20323107)
橋本 真一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60598473)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | X線吸収分光 / 軟X線 / その場分析 / 電子構造 / 遷移金属酸化物 |
研究概要 |
導電性、反応触媒活性といった機能性酸化物酸化物の材料物性に深く関与する電子構造を実験的に直接評価することは、酸化物の特性向上あるいは新規材料の開発を行う上で重要である。そこで本研究では、(i)酸化物が使用される各種条件での測定を可能とするその場軟X線吸収分光測定技術の確立、(ii) 3d遷移金属ペロブスカイト型酸化物(La,Sr)MO3(M = 3d遷移金属)をモデル材料とした電子構造の直接評価、を目的に研究を行った。 初年度は、まず高温、雰囲気(ガス分圧)を制御した大気圧下における軟X線吸収分光測定を用いた電子構造のその場評価手法の開発を行った。本研究では、JASRI・為則によって開発された大気圧環境下軟X線分光用差動排気システムをベースとし、このシステムの最下流位置に、研究代表者等によって開発された特殊環境吸収測定用試料ホルダを設置することで、試料の温度を制御し、かつホルダ内部への任意のガスのフローを可能とする測定系を構築した。これにより、室温~600℃、酸素分圧10-2 bar以下(Heベースガス)での計測が可能な測定技術を世界で初めて確立することができた。 また、開発された測定技術を用い、ペロブスカイト型3d遷移金属酸化物である(La,Sr)CoO3(LSC)のその場軟X線吸収分光測定を行った。測定は、室温~600℃まで100~200℃毎に、酸素分圧10-2~10-4 barにおいて、遷移金属L吸収端、酸素K吸収端について行った。(La,Sr)CoO3では、室温から温度が上昇するにつれてCoのスピン状態が低→中間→高スピンと遷移することが示唆されているが、これまでにこれを実験的に確認した例はなかった。本研究では、その場軟X線吸収分光測定により、このスピン転移を直接観測することに初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(i) その場軟X線吸収分光測定技術の確立、(ii) これを用いた酸化物の電子構造評価、を二つの柱として進めることを予定していた。その中でも初年度は、まず高温、雰囲気を制御した大気圧下における軟X線吸収分光測定を用いた電子構造のその場評価手法の開発を行うことを主目標としていた。本研究では、JASRI・為則によって開発された大気圧環境下軟X線分光用差動排気システムと、研究代表者等によって開発された特殊環境吸収測定用試料ホルダを組み合すことにより、試料の温度:室温~600℃、酸素分圧:10-2 bar以下でその場軟X線吸収分光測定が可能な装置を開発した。600℃以上の温度でのその場測定は、まだ装置上の制約から実施に至っていないが、温度と雰囲気を制御したその場軟X線吸収分光測定技術の基礎は確立することができ、今年度の当初計画は概ね達成できたと言える。 上述の項目(ii)については、当初は2年目での測定を目指していた。しかし、装置開発が順調に進んだことから、既に今年度にペロブスカイト型3d遷移金属酸化物(La,Sr)CoO3(LSC)のその場軟X線吸収分光測定を行うことができた。これにより、本研究で開発された手法が、酸化物の電子構造評価に有効であることが示された。このように、開発された手法を用い、実際の酸化物の電子構造評価を行うことができた点は、当初計画を越えた成果と言える。 以上より、本研究の初年度の目的は、概ね達成されたものと判断する。、
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今後の研究の推進方策 |
高温、制御雰囲気下でのその場軟X線吸収分光測定技術の確立という観点では、初年度、試料から熱輻射によるノイズのために、600℃以上の温度での測定は困難であることが判明した。この問題を解決するために、次年度は、X線吸収量の評価を、現在使用しているフォトダイオードからノイズに強い別の検出器に変更する、検出器前にノイズ分離用のフィルターを設置する、等の装置改良を行う予定である。これにより、さらに高温での測定にも対応可能な測定技術の確立を目指す。 一方、酸化物の電子構造評価については、LSCと同じペロブスカイト型構造を有する他の3d遷移金属酸化物(La,Sr)MO3(M = Cr, Mn, Fe, Ni)を中心に、高温、制御雰囲気下における電子構造の評価を行うことを予定している。特に、同材料中の酸素不定比が電子構造変化に及ぼす影響に着目しつつ、ペロブスカイト型遷移金属複合酸化物の電子構造を系統的に理解し、同酸化物中の遷移金属種が電気伝導特性に及ぼす影響を明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の通り、次年度はまず、より高温での測定を可能とする機構の開発を行う。そのために、装置そのものの改良、ノイズ分離用フィルターの装着等を行う予定である。特に次年度前半には、このための研究費の使用を考えている。 一方、上述のような様々な酸化物の電子構造評価を行うために、各種酸化物合成のための原料粉末、合成、加工、さらには測定時の雰囲気調整用ガスなどに研究費を使用する予定である。 また、データ解析等の実験補助に予算を計上する。さらに、次年度中間~後半に掛けては、成果公表に係る論文作成や学会発表のための旅費等に研究費の支出を想定している。
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