研究概要 |
本研究は,酸化物の酸素欠陥の生成・消滅の熱力学平衡を力学的な応力によって変化させ得ることを実験的に立証し,応力が欠陥平衡 に及ぼす影響について,熱力学的な記述を可能にすることを目的としている。対象とした酸化物は,(La,Sr)CoO3 (LSC),(La,Sr)(Co,Fe)O3 (LSCF),(La,Sr)FeO3 (LSF) の一連の酸素欠損型ペロブスカイト型酸化物の他,格子間酸素および金属欠陥による酸素過剰型酸化物として,それぞれLn2NiO4(LN214)とLaMnO3(LM)を対象とした。これらの試料表面に,球状のYSZを,万能試験装置を用いて押し込み,試料上に設けた電極とYSZ上に設けた参照極との間の電位の時間変化を計測した。圧縮によって酸素欠陥生成の熱力学的平衡が変化する場合,圧子直下の試料内では,荷重印加直後から,新しい平衡組成に向かって酸素空孔量が変化しようとするが,この過程は拡散を伴うため,すぐには周囲の酸素分圧と平衡化しない。この平衡とのずれがYSZを通して起電力として観測されることになる。昨年度までに,LSCFとLSCについて,押し込み時に負の電位シフトが,除荷時に正の電位シフトが発生する事を確認した。これらの酸化物は,酸素空孔生成によって体積が膨張することが知られているが,圧縮応力はこれを妨げる方向に働くため酸素空孔濃度が減少すると考え,半定量的に熱力学的な説明に成功した。平成25年度は,さらに,LSFについて複数の酸素分圧領域での実験を行った。この結果,酸素分圧に対する酸素空孔濃度の変化が大きな領域では LSCやLSCFと同様の起電力が発生するが,酸素空孔のプラトー領域ではこのような電位の発生が見られない事がわかった。プラトー領域では酸素空孔量の揺動量に比較して応力による空孔濃度変化が十分に小さいことが原因と考えられ,前述の熱力学的記述と矛盾しない事がわかった。
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