アパタイト型結晶構造を有するランタンシリケートについて、そのイオン伝導メカニズムを定量的に解明するため、第一原理計算を用いた理論解析を行った。まず格子間酸素イオンの最安定・準安定サイトを網羅的に探索したところ、アパタイト型構造のc軸に平行な酸素イオンカラム近傍に最安定となる格子間酸素イオンサイトが存在することがわかった。さらに0.1eV程度エネルギーが高い準安定格子間サイトがSiO4四面体近傍に存在していた。これらは従来の実験報告と一致した結果である。また格子間酸素イオンサイトを結ぶイオン伝導経路とそのポテンシャルエネルギー障壁をNudged Elastic Band法により調べた。アパタイト型結晶構造において、格子間酸素イオンが格子間をすり抜ける格子間機構を仮定した場合、エネルギー障壁が1 eVを超える結果となった。実験値(0.5-0.9eV)を念頭に置くと、格子間機構による拡散は困難であると考えられる。そこで、イオン半径の大きな酸素イオン同士の連動を考え、準格子間機構によるイオン伝導を検討したところ、格子間機構に較べ低いエネルギー障壁であることがわかった。この準格子間機構による酸素イオン伝導の様子は、別途行った高温での第一原理分子動力学計算でも確認することができた。このような酸素イオン伝導機構は従来報告に無いメカニズムであり、複雑な結晶構造を有するランタンシリケートやその類縁物質が示す高いイオン伝導度の起源であると考えられる。
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