研究課題/領域番号 |
24656395
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀田 篤 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (30407142)
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キーワード | ポリマー / ナノファイバー / 光グラフト重合 / 親水化 / 高機能化 |
研究概要 |
本研究では光グラフト重合法による機能性付与により,新規機能性ナノファイバーを創製することを目的としている.ここでは,エレクトロスピニング法の作製条件最適化により,ポリウレタンの微細ファイバーの作製し,レーザー顕微鏡解析により,均一な径を有するナノファイバーを確認した.ポリウレタンはゴム弾性を有し,優れた伸縮性や柔軟性を備えているため,汎用性が極めて高い.しかしその一方で,ポリウレタンは疎水性でもあるため水中での使用が困難であり,用途に限りも出てくる.そこで,作製したナノファイバーにアクリル酸を光グラフト重合させることで,親水性のナノファイバーへ改質することを試みた. 具体的には,親水性に優れたアクリル酸モノマーを疎水性ポリウレタンナノファイバーにグラフト重合させることで,疎水性ファイバーから親水性ファイバーに改質することを確認した.このことは,レーザー顕微鏡解析によるナノファイバー径の増大,接触角測定による接触角の増大,さらにはXPS解析による酸素/炭素のモル比増大,の3つの解析結果から確認した. 本研究の意義という点では,ナノファイバーへの光グラフト重合という手法が確立できたこともあげられる.これにより,さまざまな材料のナノファイバー改質の可能性が出てくる.今後は,ナノファイバーに生体適合性を付与するなどの医療材料への用途拡大,親水性や疎水性といった表面性状を制御したファイバーの作製,生分解を制御した生分解性ナノファイバーの作製,など多岐に亘る分野での実用途を見据えて研究する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究室ではかねてより,1.ナノファイバー,2.紫外線照射による光グラフト重合,3.機能性向上の3つの視点から研究を実施してきており,それぞれの点において多くの知見を得てきた.しかし,これら3つのキーワードは個々に扱われてきたため,従来の研究成果が融合することはなかった.そこで本研究では,これまでに培ってきた知見をもとに上記に挙げたキーワードを融合することによって,新規機能性ナノファイバー創製のための技術を確立することを試みている.上記目的により,これまで1.エレクトロスピニング装置の最適化によるポリウレタンナノファイバーの作製,2.そのポリウレタンナノファイバーへのアクリル酸モノマーの光グラフト重合,3.接触角測定による親水性評価,を実施してきた.具体的には,レーザー顕微鏡解析によりポリウレタンナノファイバーの作製を確認し,XPS解析によりアクリル酸モノマーの光グラフト重合を確認し,親水性のアクリル酸モノマーのグラフト重合によるポリウレタンナノファイバーの親水化を確認することを実施した. 主な研究目的である3つのキーワードの融合には成果が出ており,概ね順調であるといえる.今後は,紫外線照射による光グラフト重合法およびより詳細な機能性評価を実施していくことで,研究成果の確認とその汎用性を見極めたい.
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今後の研究の推進方策 |
アクリル酸モノマーのポリウレタンナノファイバーへ光グラフト重合については,その基盤技術を確立し,追実験と確認実験を通して,より迅速で信頼性のあるデータを得る技術を構築する.今後は,ポリウレタンナノファイバーをベースとして,新たなモノマーの光グラフト重合を視野に入れて,新規機能性材料を創出したい.これらの研究成果が「ナノファイバーへの光グラフト重合」技術確立に寄与することも今後の大きな目的の1つとなり推進方策となる. 具体的に次なるステップに最も近いのが,医療用モノマーを用いることであると考えている.当該研究室では,実際の医療現場で活躍する医師とすでに共同研究体制にあり,医工連携の視点での研究は迅速に進められる.具体的には,医療用モノマーの一つであるMPC(リン脂質)モノマーに焦点をあてる.MPCは生体適合性に優れており,ステントグラフトへの応用が注目されている.ステントグラフトに求められる要素は,血小板付着量が少なく,内皮細胞増殖性が高いことである.しかし,MPCは,血小板付着量は少ないものの,内皮細胞増殖性が低い.そこで,MPCを微細ファイバー化させて比表面積を大きくすることで,内皮細胞増殖性を高くするという試みが当該研究室でなされている.これにより,血小板付着量が少なく,内皮細胞増殖性が高いファイバーの創製が可能になり得る.しかし,MPCファイバーは脆性材料であるため,実用化が今のところ難しい.そこで,ゴム弾性を有し,優れた伸縮性や柔軟性を備えているポリウレタンナノファイバーを作製し,そこにMPCモノマーを光グラフト重合する手法が有効であると考えているため,上記医工連携組織での研究推進も視野に入れて今後の研究に取り組んでいく.
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