本研究の当初の目標は、金属ガラスの過冷却液体状態とガラス状態における局所構造の違いを、これまでに開発したオングストロームビーム電子回折法を用いて明らかにすることであった。具体的には、過冷却液体領域の広い金属ガラス試料を用い、透過電子顕微鏡内で加熱ホルダーを使うことにより、過冷却液体温度域での電子回折を取得する予定であった。しかし、試料のドリフトや変質などの問題により過冷却状態で良好なデータを取得するのは極めて難しかった。また、本手法では大量なデータが解析に必要なため、試料の安定な保持が特に重要であるのも大きな問題であった。そこで昨年度から当初の予定を変更して、広い過冷却液体領域を持つバルク金属ガラスPd-Cu-Ni-Pのガラス状態での局所構造を詳細に調べることにした。得られた電子回折パターン中には強い強度のスポットが見られた。この試料から1000以上の大量のパターンを撮影してすべて重ね合わせたところガラスに特徴的なハローリングを再現しており、このガラスの高い安定性を考慮しても、このスポットは決して結晶から生じているものではないことがわかる。また電子回折マップを撮影することにより、回折スポットの相関長を見積もることが可能であり、おおよそ1~2nmの値をとることが明らかとなった。つまり、このバルク金属ガラスの構造は結晶ではない1~2nm程度の構造的相関を持つ領域の集合であると言うことができる。
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