サイズを数ナノスケールに制限して得られる、いわゆる量子構造は、島状成長薄膜成長、リソ加工、マスク成長などを利用して、基板材の表面に作製されてきた。これら数ナノスケールの細線をバルク中に作り込む簡便な技術が実現できれば、同分野に大きく貢献できるとともに、新規物性発現に大きな期待が持てる。この目的のために、本研究では一次元格子欠陥の一つである転位に着目した。転位形成については、小傾角粒界や、薄膜中に形成される転位を利用した。小傾角粒界については、SrTiO3双結晶を利用し、薄膜中に形成される貫通転位についてはNiOに着目した。一連の研究の結果、SrTiO3を基板としてNiOを成長させた試料において非常に興味深い結果が得られた。SrTiO3とNiOには、僅かな格子不整合が存在する。そのために、NiO薄膜中には貫通転位が形成される。NiOをSrTiO3基板上にパルスレーザー堆積法(PLD法)を用いて成膜し、NiO薄膜中に貫通転位を形成させた。NiOは通常反強磁性体であるが、この薄膜中に形成された貫通転位をMFMにより磁気特性を計測したところ、転位コアにおいてのみ強磁性が発現することを見出した。このユニークな物性は、転位コアにおいてNiOの結晶構造が変化し、強磁性を有する構造へと変化したためであると考えられる。この成果はNature Material誌に掲載された。この研究については貫通転位コアにおける電界誘起イオン伝導について引き続き調査を行った。一方、SrTiO3双結晶の小傾角粒界転位については、転位における際立った物性発現を見出すには至らなかった。本テーマと関連し、複合酸化物の陽イオン比変化に伴う点欠陥に関しても研究を行い、対象としたSrMnO3系薄膜における酸素欠損構造について基礎的な知見を得た。
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