研究課題/領域番号 |
24656416
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
大谷 博司 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70176923)
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研究分担者 |
飯久保 智 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 助教 (40414594)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 構造・機能材料 / 磁性材料 / 自己組織化 / 組織制御 / 第一原理計算 |
研究概要 |
H24年度は,周期的な積層欠陥を導入させるベースメタルの例としてTiを選定し,高温領域で構造変態が生ずる可能性について検討を行った.また,LPSO構造が確認されているMg合金における添加元素の効果について,Mg-Al-RE(RE=Ho,Sc)系における熱力学的性質を調査した. まず純TiにおいてMgにみられるLPSO構造と同様の周期的積層欠陥を導入した構造(4H, 6H, 10H, 14H, 18R)を仮想的に作成し,それぞれの構造のエネルギーを第一原理計算によって計算した.さらに格子振動の効果を準調和近似によって取り入れることで構造のもつエネルギーの温度依存性を求めた.その結果,純Tiではこれらすべての長周期構造が温度上昇とともに安定化し,特に10H,18R構造が1700K付近で2H構造より安定することが分かった.このようにTiにおいても長周期構造が安定化する可能性が示されたが,純Tiは1155Kでhcp→bcc変態を起こすため,長周期構造が安定化する温度域では,むしろbcc構造が安定である.実際,純Ti試料を用いて熱分析,X線回折による構造相変態を測定してみたが,そのような兆候は見られなかった.したがってbccへの変態を抑制するAlなどの添加元素を加える必要があることが分かった. 一方,Mg-Al-Ho,Mg-Al-Sc 3元系におけるLPSO構造生成の可能性を調べるために,これらの3元系の熱力学的解析を行った.その結果,LPSO構造が確認されているMg-Zn-Y 3元系と比較すると,3元系におけるhcp相の準安定2相分離領域がやや小さいが,Mg-rich領域とAl-RE-rich領域での2相分離傾向も確認された.この結果から考えると, Mg-Al-Ho,Mg-Al-Sc 3元系においても熱力学的にはLPSO構造が形成する可能性があることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度の研究遂行により,金属中に長周期積層構造が形成されるためには,結晶格子中に周期的な積層欠陥が導入される構造変調の導入と,マトリックスと積層欠陥の間で添加元素の分配,濃縮が起こるための組成変調を起こすことが必要であるという,研究遂行上きわめて重要な知見が得られた.すなわち,4H, 6H, 10H, 14H, 18Rをはじめとする周期的な積層欠陥がマトリックスの構造(たとえば2H)に対して,熱力学的に安定化する温度領域が存在し,それらの欠陥構造における溶質元素の化学ポテンシャルがマトリックスよりも熱力学的に安定である場合,いわゆる鈴木効果によって添加した遷移元素と希土類元素が偏析するという形成機構が推定される.この場合,添加元素の偏析を促進するためには,マトリックス内部での顕著な2相分離傾向の存在が重要であり,これまでLPSO構造が観察されているMg-Y-Zn系などでは,いずれもこのような熱力学的性質を持つことが明らかにされた.したがって,本研究の初年度に得られたこれらの研究成果は,今後の研究遂行上重要な指針と考えられることから,研究は概ね順調に進んでいると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
H24年度は,主としてLPSO構造の形成要因に関する基礎的研究を重点的に行った.その結果,TiではLPSO構造形成に必要な構造相変態が準安定的に生ずる可能性があるが,安定相に隠されて,周期的な積層欠陥が導入される様子は実験的に確認されなかった.そこで今後は,ベースメタルとしてTi,Mg以外にもCu,Au,Agなども対象として,第一原理計算と格子振動解析の手法により,周期的積層欠陥構造形成の可能性について調査する.一方,本研究の当初の目的である積層欠陥に磁性元素を偏析させ,新規な化合物相を生成させることによって,新たな磁性材料を探索するという点について,ベースメタルを当面Mgとして,このLPSO構造に遷移金属と希土類元素を濃縮させて形成される化合物の磁気的性質を第一原理計算によって明らかにしながら,元素探索を行っていく.具体的には,予備的な磁化測定を行ったMg-Y-Cuでは磁化曲線に折れ曲がりが50K付近で生じており,この系の磁性を担うCuの磁気モーメントが、反強磁性的な秩序を起こしていることを強く示唆する知見が得られていることから,この系を中心に遷移金属と希土類元素を変化させながら,最適な添加元素の探索を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度には70万円弱生じたが,これは研究代表者が九州工業大学から東北大学へ異動することが決まったため,異動後の研究再開を円滑に進める目的で予算を確保したことが原因である.このためH24年度に購入予定であったワークステーションについては,この予算を念頭にH25年度に改めて仕様を策定の上,導入を検討する.
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