研究課題/領域番号 |
24656416
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大谷 博司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70176923)
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研究分担者 |
飯久保 智 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (40414594)
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キーワード | 構造•機能材料 / 磁性材料 / 自己組織化 / 組織制御 / 第一原理計算 |
研究概要 |
本研究では超格子構造を有する磁性材料をバルク体として作製することを目指して,熱力学的な組織制御法による材料開発研究を行うことを目的にしている.具体的には第一原理計算等を利用して添加元素の選定を行い,バルク中の積層欠陥の形成を制御することで,新規な長周期構造をもつ磁性材料の創成を目指している.H25年度は,溶質元素が積層欠陥に偏析する理由についての基礎的研究を行った.具体的には,第一原理に基づいて計算されたMg-Y-Zn3元系のhcp, fcc固溶体の自由エネルギーを熱力学的に解析した.その結果この合金の積層欠陥に対する溶質元素は,Yでは3.4,Znでは16程度偏析することが明らかになった.この結果を前年度に得られた周期的積層欠陥構造の熱力学的安定性についての知見と組み合わせると,偏析した溶質元素は凝固後の固相の結晶格子を膨張させることによって,長周期積層欠陥構造の形成を促進し,そこに溶質元素が偏析することによって特異な組織が形成されることが明らかになった.さらに,このようにして明らかにされた超格子構造の形成機構に基づいて,磁性元素を含むMg基3元合金を溶製した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で第一原理計算を用いて計算した結果では,体積が膨張すると18Rや14Hなどの長周期構造が安定化することがわかった.このことから,イオン半径の大きなYをはじめとする希土類元素が凝固時に偏析すること,および温度上昇に伴う熱膨張の効果により,周期的な積層欠陥構造が形成されやすい状況が作られることが明らかになった.それらの欠陥構造における溶質元素の化学ポテンシャルが母相よりも熱力学的に安定な場合,いわゆる鈴木効果によって添加した遷移元素と希土類元素の偏析によってLPSO構造に見られる特異な組織が形成されると考えられる.このように,H25年度までに目的とする長周期積層構造の形成原理に関する新たな知見を得られたことが理由である.このように形成原理を学理的に解明することは,長周期積層構造が出現する物質群を拡大することにつながる.そこでこのような組織制御の条件を満たすMg基合金の添加元素を,CoやDyなどの磁性の機能発現が期待される元素を中心に選択し,ベースメタルの構造を基本とする基底状態解析を行い,合金の溶製を開始している.これらの試料の組織観察と磁化測定を行うことで,本研究で明らかにした形成機構の実証が可能になり,新規なLPSO構造磁性材料の創成に近づくことができると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
MgにCoやDyなどの自発磁化をもつ合金元素を添加した試料の磁化測定を行う.予備的に測定したMg-Y-Cuの磁化測定の結果では,50K付近に磁化曲線の折れ曲がりが観察されたが,これはこの系の磁性を担うCuの磁気モーメントが反強磁性的な秩序を起こしていることを強く示唆していると考えられた.複相組織を構成するひとつの相の磁性であっても,長周期積層構造のような周期性があれば協力現象によってマクロな物性として観測される可能性がある.溶製した合金において顕著な磁性の発現が観察されなかった場合には,さらに電子論計算から候補合金系の探索を行いながら,新規磁性合金の創成を試みる.なお,研究計画の変更ではないが,平成25年度に購入を予定していたワークステーションは,研究代表者が九州工業大学から東北大学へ異動になったことから消耗品類の購入が必要になったこと,また別な研究予算から新たに80コア並列計算機を増設できたことから予算の使途を変更した.
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度に研究代表者が九州工業大学から東北大学へ異動になったため,当初は研究室立ち上げのための消耗品類の購入を予定していたが,多くは既存の物品で代用が出来ることがわかり,これらの物品の購入が必要なくなったためである. 引き続き新しい研究室で本研究課題を遂行するための消耗品類の購入に充当していく予定である.
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