研究課題/領域番号 |
24656422
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
下山 巌 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (10425572)
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研究分担者 |
吉越 章隆 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (00283490)
寺岡 有殿 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (10343922)
関口 哲弘 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (20373235)
馬場 祐治 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 福島研究開発部門 福島事業管理部, 嘱託 (90360403)
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キーワード | ヘテロ原子ドーピング / 炭素触媒 / NEXAFS / 偏光依存性 / 酸素還元反応 |
研究概要 |
H24~H25年度において実施した研究から以下の成果を挙げた。 1) Pドープグラファイトの触媒活性 酸素還元反応に対するPドープ炭素触媒の触媒活性と結合状態との相関関係を調べた。イオンドーピングにより作製した試料に対して吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)分光法による分析を行った。高温(700~800℃)ドーピングを行った試料と室温ドーピングを行った試料を比較すると、前者はP K端NEXAFSスペクトルに明瞭な偏光依存性が観測されたのに対し、後者は偏光依存性が低下する傾向を示した。偏光依存性の低下がイオンフルエンスにほとんど依存しないこと、また理論計算によるNEXAFSスペクトルの解析から、我々は偏光依存性の変化がPサイトにおける立体配置の違いに起因することを明らかにした。さらに、偏光依存性の異なる試料に対して酸環境下で電気化学測定を行ったところ、高温ドーピングの試料で触媒活性がほとんど見られなかったのに対して、室温ドーピングの試料では触媒活性が見いだされた。我々はドーパントサイトの立体配置が触媒活性に影響を及ぼすことを明らかにし、高活性の炭素触媒を得るには曲面構造の導入が重要であるとの設計指針を得た。 2) B, Nドープグラファイトの原子配置解析 BもしくはNの単一ドーピングに比べ、B, N共ドーピングにより炭素触媒が高い活性を持つシナジー効果が報告されている。触媒機能はB, C, N間の配置に大きく依存するが、構造の複雑さのためその原子配置には不明な点が多い。我々はB, N共ドーピングを行ったグラファイトに対してB及びN K端NEXAFSスペクトルを測定すると共に、原子配置の異なる幾つかのモデル構造を用いて密度汎関数理論計算を行い、得られた電子構造とNEXAFSスペクトルとの比較から、B-N間の分極を促進するようにドーパントが配置されるという分極ルールを見いだした
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.反応性ガスハンドリングシステムを作製し、これを用いてグラファイトへのP及びBドーピングを行った。Pドーピングの試料については前述の通りNEXAFSを用いた偏光依存性測定と密度汎関数理論計算による解析からPサイトの立体配置がドーピング時の試料温度により平面構造・曲面構造と異なることを明らかにした。また立体配置と触媒活性との相関関係を調べ、曲面構造のPサイトが増えることで触媒活性が向上することを示した。Pドーピングについては当初の目的をほぼ達成し、この結果については昨年度Carbon2013国際会議において発表した。 2.高い触媒活性を持つB, NドープグラファイトについてはNEXAFSを用いた構造解析により原子配置に関する分極ルールを見いだした。この結果はCarbon誌に掲載された。またBドーピングについてはドーピング時の試料温度に依存してB K端NEXAFSスペクトルの偏光依存性が変化することを見いだした。 3.チオフェンを原料ガスに用いてグラファイトへのSドーピングを行い、S K端NEXAFSの偏光依存性と触媒活性との間に相関関係があることを見いだした。これにより、B, N以外のドーパントについても酸素還元反応の触媒活性を付与できるものがあることを示すと共に、ドーパントサイトの立体配置が触媒活性に影響を及ぼすことを明らかにした。 4.PドーピングとNドーピングについてはチオフェン吸着特性の比較を行い、PドーピングはNドーピングの約20倍大きいチオフェン吸着能を示すことを見いだした。これによって、ヘテロ原子ドーピングが炭素材料の吸着脱硫特性という別の機能についても有効であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
1. NドーピングについてはN K端NEXAFSの偏光依存性と触媒活性との間に相関関係が見いだされたが、NEXAFSの偏光依存性はイオン照射時の試料温度だけでなく、イオンフルエンスも影響するため、温度とフルエンスを変えた一連の試料に対する触媒活性を測定し、その系統的変化がNEXAFSの偏光依存性とどのような相関関係を持つかを確かめる。 2. Sドーピング、Bドーピングを行った試料のNEXAFSスペクトルの解析を密度汎関数理論計算により行い、ドーパントサイトの化学結合状態を明らかにする。 3. グラファイトへのヘテロ原子ドーピングがもたらす機能性として、触媒活性、脱硫特性以外の現象の探索を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
Carbon2013国際会議の旅費が予想よりも少なかったためと、反応性ガスハンドリングシステム製作のコストを低く抑えることができたため。 コールドカソードゲージ真空計の不調のためその交換に用いる予定である。
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