研究課題/領域番号 |
24656424
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
垣内田 洋 独立行政法人産業技術総合研究所, サステナブルマテリアル研究部門, 主任研究員 (40343660)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオミメティック材料 / 液相法 / 自己組織化 / 相転移 / 断熱・放熱 / 表面熱伝達 / 対流 / 放射率 |
研究概要 |
H24年度の「VO2マイクロフレークの創製と形状制御性を見出す」という目標は概ね達成し、H25年度の「VO2マイクロフレーク成膜面の拡大とその熱的挙動の性能評価」を行うための方針を得ることができた。一方、本研究を進める中で新たにわかってきたVO2膜質向上という課題の解決にも取り組む。具体的には以下の通り。 酸化硫酸バナジウム(VOSO4)水和物を主原料とした液相法により、作製条件(組成比、温度、時間、pH、テンプレート)を系統的に変え、XRD結晶分析・光学分光法による相転移の観測・SEMおよびAFMによる膜モフォロジー観察を行って、膜の特性を詳細に調べた。そしてH24年度の計画通り、VO2マイクロフレークの実組成(酸化数、不純物など)とメゾスケール形状に作製条件が及ぼす影響の知見を得た。主な知見として、①従来VO2膜と異なった光学特性の熱的振舞い、②相転移温度とヒステリシスの制御性、③下地がフレーク成長過程に及ぼす影響、④pHによるフレーク形状の制御性、が挙げられる。 一方、本研究の過程で、⑤液相法の後処理と⑥膜質の基板依存性の確認、という2つの課題が新たに明らかになった。⑤、⑥の対応は、より良質な膜とするために有効と考えられ、H25年度は当所の計画に加えてこれらを行う。なお、①から⑥についての詳細は、次項目以降に記載する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「液相法によるVO2マイクロフレークの創製・形状制御技術の確立」というH24年度の目標を概ね達成した。一方、同時に膜質(組成とモフォロジー)をより向上させるための新たな課題を見出した。 様々な条件で行った作製の基本手順は次の通りである。VOSO4に、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を滴下・混合してpH調整等を行い、所定温度とした上で、一定時間、基板を溶液内部に静置し、反応を緩やかに進めてVO2マイクロフレーク膜を数ミクロンスケールの厚みで成膜した。 概要に記載した①から④の知見は、本研究を達成する上でポジティブな結果であり、H25年度の研究に繋がるものである。一方、⑤および⑥は、昨年度の研究の中で見出した新たな課題で、本年度、追加で取り組む。まず①と②については、70℃付近に相転移現象が観測され、VO2が膜内に存在することを示唆している。但し、VO(2±x)相(x>0)および反応残滓も膜内に残存すると考えられ、膜質向上のためには⑤で述べるように追加処理が必要で、その手法については推進方策で後述する。③では、サファイアやガラスなど幾種かの基板を試み、VO2成膜性を調べた。その結果、一定の成膜安定性を確認したが、基板依存性がまだ見られるため、⑥に記したように、それを抑えるさらなる条件探索が必要である。一方、④ではpH制御がVO2のマイクロフレーク形状に影響する重要因子であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今後(H25~26年度)の課題として研究計画に設定した「VO2フレーク成膜面積の拡大と対流熱伝達率の評価」の内、H25年度は成膜面積の拡大、H26年度は対流を含む熱伝達の計測評価を中心に取り組み、本研究の目的を達成する。概要に記載した①から④の知見に従えば、基本的に面積に関わりなく成膜が可能なので、本年度、予定通りに面積拡大用の治具を準備して開発を進めていく。一方、⑥で記したように、基板依存性の課題がまだあり、面積拡大化で想定されるガラス基板でのバッファ層を介した成膜条件の探索を改めて行い、質の高いVO2フレーク膜を実現する。現時点では、VO2の格子定数に近いTiO2をバッファ層として用いることを予定している。またこれに関連し、⑤の膜質向上のために、液相法成膜の後処理として、熱とレーザ照射を組み合わせたアニーリング工程を加えて改質を試みる。具体的にはVO2の吸収端付近の波長に相当するバイオレットレーザ光を基板温度と雰囲気を制御しつつ照射し、その効果を見極める。 H26年度については、表面熱伝達の中の対流成分と放射成分とを区別して解析できる計測システムを構築し、相転移にともなう熱伝達率の変化を探る。以上の研究プロセスで、本研究の目的である熱応答型の表面熱伝達制御素子を実現する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度に予定していた人件費を抑えたことと、当所予定に無かったレーザ光源の購入にH25年度予算を充当する、という二つの理由で昨年度から\922,216を繰り越した。 第一の理由を具体的に記すと、昨年度研究を進める中で、実際の成膜手順が想定より煩雑なことが判明し、当所、作製のルーチン作業依頼を想定し、契約職員採用を計画していたが、それが技術的に困難な業務で実際に採用を行わなかったというのが経緯である。因みに、昨年度は申請者本人による作業工数を増やして対応した。 第二の理由は、昨年度後期で膜質向上という課題(概要の⑤、⑥)が新たに上がり、解決手段として熱とレーザ照射を組み合わせたアニール処理の提案に至ったことである。実際、当所予定に無かった100mW級以上のバイオレットレーザの購入を検討したが、資金的・時間的制限から昨年度中に対応できなかった。このような経緯で、昨年度からの繰り越しと合せた本年度の予算を、この購入費用(最大\120万の見込み)に充てる。なお、その他の使途については当所の計画通りに行う。
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