昨年度に研究期間の延長を申請した通り,得られた研究成果をPRICM-8国際会議で発表した.また,本研究で利用した塑性加工による組織制御の研究について,機械的特性をより正確に評価する実験を行った.これまではAl中にTiNi粉末を分散させたインゴットを室温で鍛造・圧延させてAl9FeNiナノ析出物を生じさせていたが,この方法ではAl9FeNi析出物の密度にばらつきがあったため,機械的特性評価が難しかった.そこで,昨年度までの研究でAl9FeNi析出物の生成メカニズムが明らかになったため,別の方法でAl9FeNi析出物を生成させて,その機械的特性を評価した.これまではAlとTiNiの組み合わせを用いていたが,Al9FeNi相析出の際にAlやTiNi中に不純物として含まれるFeが重要な役割を果たした一方,Tiの役割が小さかった.そこで,AlとTiNiではなく,AlとFe-Niの組み合わせを用いることを着想した.Al板にFe-Ni電解めっきを施し,Arガス雰囲気中で45秒以下の高周波誘導加熱を行ったところ,Al板とFe-Ni電解めっきが反応してAl9FeNi相が析出した.この試料を樹脂中に埋め込んで断面を切断し,深さ方向にビッカース硬度測定を行った.試料のAl板部のビッカース硬度は35程度であったが,Al9FeNi相が析出した領域では硬度が45まで上昇した.これにより,Al中にAl9FeNi相が析出することにより硬度・強度が上昇することが明らかになった.従来作製した,TiNi粉末を分散させたAl材を塑性加工して生じるAl9FeNiナノ析出物が分散したAl材試料も,本年度の研究成果と同様に,硬度・強度が上昇していると考えられる.
|