研究課題/領域番号 |
24656433
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
金児 紘征 秋田大学, その他部局等, 名誉教授 (20006688)
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研究分担者 |
福本 倫久 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20343064)
中川 時子 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40180252)
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キーワード | 原子力発電 / 圧力容器 |
研究概要 |
東京電力福島原子力発電所における原発事故で圧力容器が激しく損傷したと予想される。その際、冷却水として注入された海水、再臨界防止のために注入されたホウ酸が圧力容器の腐食にどのような影響を与えるかについて、緊急の研究計画を立てて研究を行った。初年度(前年度)は予想される圧力容器の激しい腐食を調べるために、どのような加速実験が模擬実験として適切か、その実験条件を検討した。その結果、加速実験条件として、150℃において、飽和NaCl-濃厚H3BO3の組成の水溶液中で、圧力容器材料のSA533B,また内張りのインコネル、さらにSA533B/インコネルガルバニ対の腐食挙動を4時間、調べることにした。飽和NaCl水溶液ではほとんど腐食せず、濃厚H3BO3水溶液ではかなりの腐食となり、飽和NaCl-濃厚H3BO3水溶液では激しい腐食となった。さらに、SA533B/インコネルガルバニ対になると、腐食が加速した。4時間の測定結果から、SA533B/インコネルガルバニ対では0.08mm/h(70cm/y)の腐食速度になった。今年度は、さらに、これらの腐食におよぼすpHの影響を評価するためにはより広い組成域で調べる必要があるという観点から、NaCl-H3BO3-NaB4O7(ほう砂)水溶液中での実験を行った。前年度に行ったNaCl-濃厚H3BO3水溶中の実験結果と比較するために、ホウ酸濃度を同一にした条件下で、NaCl-NaB5O8(五ホウ酸ナトリウム)とNaCl- NaHB4O7(四ホウ酸水素ナトリウム)の組成になるような溶液を調整して実験に供した。その結果、5ホウ酸ナトリウムの場合はホウ酸の場合より若干腐食度は低下するが、腐食形態はホウ酸の場合と類似していた。それに対し、4ホウ酸水素ナトリウムの場合は著しく腐食度は低下し、SA533B/インコネルガルバニ対界面での加速的腐食も検知できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していた前年度の実験の過程で、当初予定のNaCl-H3BO3系だけでなく、より広い組成のNaCl-H3BO3-NaB4O7(ほう砂)系で調べることが必要であることに気付き、実験を開始したが、Niの特異的な濃縮剥離現象を発見できたことから、概ね満足できる達成度である。 なお、圧力容器の被覆管接合部以外の内張りにステンレスが用いられているために、SA533B/ステンレスのガルバニック腐食についての研究も進めることも予定していた。基礎的実験を行った結果、SA533B/インコネルガルバニック腐食と比べ、ガルバニック腐食性が低いことが明らかになった。そこで、ガルバニック腐食に着目した検討の必要性は少ないと判断し、予備的考察だけで終了した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見をふまえ、2つの課題について推進する。 (1) Ni 濃縮過程の解明 ホウ酸、五ホウ酸ナトリウム中のガルバニ腐食では、SA533B中に少量添加されているNi が濃縮して層状に剥離していく特異な現象を発見した。防食のために添加されたNiの脱離はSA533Bの耐食性を劣化させるから、見過ごせない問題である。そこで、Niの濃縮過程を詳しく調べて検討する。 (2) ガルバニック腐食性の理論的検討 SA533B/インコネルのガルバニック腐食性が溶液によって顕著に違うことを典型的な実験条件下で実験的に明らかにしてきた。ガルバニック対の界面における腐食性はアノード/カソード面積比によって著しく変化する。そこで、得られた実験結果を加味し、ガルバニック対の電位、電流分布の理論的解析を行い、面積比とガルバニック腐食性の関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度、腐食した試料を電子顕微鏡を用いて、より詳細に観察することとした。 次年度の研究費の使用計画 研究費は設備費の予定はなく、実験材料費等、電位分布解析費、学会発表旅費、補助研究員費、成果発表費である。実験材料費等は、SA533B,インコネル600などの実験材料、および熱電対、配管、バルブ類である。電位分布解析は、自前で行う以外に、外部にも解析依頼する。
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