有害物質を含まず,リサイクル性を低下させない新たな防食技術としてX線照射による試料表面での励起反応に起因した最表面構造制御を利用したMg合金への耐腐食性の付与プロセスを提案し,その反応機構の解明と防食法としての有効性について検討した.金属試料表面におけるラジカル種の発光スペクトル解析の結果,湿潤雰囲気下におけるX線照射によって金属試料表面ではH2Oの電離により反応活性なOH・が生成することを確認した.また汎用鉄鋼材料であるSPCC試料に対してX線照射を行い,組織構造変化を調査した結果,OH・とFe試料表面間での酸化還元反応により,水和物を含まないFeO3の無水和酸化物層がFe試料表面に形成した.熱力学的な解析の結果,OH・とFe金属表面の酸化反応はFeの自然酸化反応よりもエネルギー的に有利であり,FeはOH・との酸化反応により,水酸化物を含む中間生成物の形成を経ずに,Fe2O3へと直ちに酸化することを明らかにした.さらに,X線照射による試料表面への緻密なMgO皮膜形成を利用したMgおよびMg合金の耐腐食性向上手法の有用性について検証した.その結果,X線照射により形成したMgO皮膜の厚さはX線の照射時間の増加にしたがって増大した.MgOの生成機構はWagnerの放物線則が成立するOH・の拡散律速反応であり,X線照射時間によって膜厚の制御が可能であることを明らかにした.表面電位計測の結果,試料の電気化学的な活性度はX線照射時間の増加に伴い,最大で1.10 V低下した.X線照射時間の増加による表面電位の変化は,酸化皮膜の成長に伴う試料の電気化学的な活性度の低下によるものであった.塩水浸漬試験による耐腐食性の調査結果より,X線を照射した試料では表面に形成した緻密なMgO皮膜が保護膜として機能することで,腐食速度が約86.5 %低減し,Mgの耐腐食性が向上した.
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