研究課題/領域番号 |
24656450
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
草野 英二 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (00278095)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スパッタリング / CZTS太陽電池光吸収層 |
研究概要 |
ホットウォール(高温の空間分離隔壁)をターゲット-基板間に設置し,ZnあるいはSの蒸気圧を調整することを可能とした高周波マグネトロンスパッタリング法により,Cu2ZnSnS4(CZTS)太陽電池光吸収層薄膜を,Cu2ZnSnS4(CZTS)焼結体ターゲットを用いて堆積し,その組成,構造,および物性を解析した.平成24年度の研究成果として以下を得た. ●ホットウォールの設置が薄膜組成の制御に有効であり,さらに基板温度を高くした場合においてもホットウォールを用いることにより堆積された薄膜中のZnおよびSnを量論比に近い比率に保つことができること ●ターゲットが,高いZnあるいはSn比を持つ場合には,ホットウォールを用いても薄膜の組成が化学量論比から大きくずれること ●放電圧力を高くした場合には,低い放電電圧において薄膜を堆積した場合に比較して結晶性は悪くなるが,バンドギャップおよび抵抗率は改善されること ●ホットウォールを導入することにより化学量論比に近いSを含有するCZTS薄膜の堆積が可能となること ●ホットウォールの設置によりCZTS薄膜の結晶性が改善されること ●ホットウォールを設置し基板温度を変化させ,堆積させた薄膜において、基板温度 が高くなるとともに電気的・光学的特性が向上し,特にバンドギャップが小さくなること ホットウォールの設置および放電圧力の影響の解析において,有用な実験データが得られており,CZTS薄膜のスパッタリング法による一段階成膜の可能性を十分なデータにもとづいて示した.学術的にも有為なデータが蓄積されていると判断できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度における,主たる研究の目的(ゴール)は,ホットウォール条件およびターゲット組成の最適化であった.平成24年度の目標に対する達成度は70%である.未達の部分はCZTS薄膜を用いた素子のI-V特性評価およびターゲットS組成の影響の評価である.以下に詳細を報告する. ●ホットウォール条件の検討 ●達成度:70% ホットウォールの設置により,比較的量論比に近い薄膜を安定して得ることができ,また,ホットウォール温度400℃基板温度300℃の条件において,組成が最もターゲット組成比に近い値となることを示した.さらに,ホットウォールの設置によりSおよびZnの再蒸発が抑制された結果,化学量論比に近い薄膜が安定して得られるという結果を得た.これらの点においては,応募時の計画を達成したと判断できる.一方,ホットウォールを設置し基板温度を変化させ堆積させた薄膜において,基板加熱による電気的・光学的特性の向上を実証したが,ホットウォール温度の体積抵抗・バンドギャップへの影響を系統的に確認することができず,またI-V特性を評価することができなかった. ●ターゲット組成の最適化 ●達成度:70% X線回折による結晶構造解析により,化学量論比に近い組成をもつターゲットを用い,堆積した薄膜が,最も良い結晶性を示すことが明らかとなった.一方,S-Zn,SあるいはZn組成比を制御した薄膜では,複数の異なる配向の存在を示す結果が得られた.また,S-Zn組成を高めたターゲットにおいて,S,ZnあるいはCu組成を高めたターゲットと比較し,良質な結晶性を得られた.以上の点において,十分に目標を達成した.しかし,S組成を高めたターゲットでは基板温度が高まるとともに,結晶性が低下する傾向を得て,当初計画していたターゲットS組成制御による電気的特性の制御が一部未達となった.
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今後の研究の推進方策 |
平成25-26年度における研究の推進方策に,応募時点での研究計画に対し大きな変更はない.すなわち,「基板温度およびホットウォール温度と薄膜物性の関連について再現性を得るとともに,ガラス基板およびポリイミド基板への成膜に適した条件を見いだす.ZnS堆積についても検討し,セルの形成条件と構造を決め,ガラス基板上およびポリイミド基板上にセルを形成する.なお,セル構成については学外協力者からも情報を得ると同時に学外におけるセル形成も行う.セル効率の評価を行うとともに,界面構造との評価もおこない,効率を向上する.CIGS系にも本方法を応用し,セル形成・評価を行う.最後に,総括を行い,ホットウォールスパッタリング法の実用開発へ向けた提案を行う」ことを目指していく.具体的な研究方法としては,①ホットウォール温度および基板温度の再見直し,およびプラスチック(ポリイミド)基板上への堆積に向けた温度条件の絞り込み・圧力および分光測定による学術データの蓄積 ②ZnS成膜へのホットウォールスパッタリング法の展開・条件の最適化 ③ガラスおよびポリイミド基板上へのMo/CZTS/ZnS/ZnO太陽電池セルの堆積条件検討,界面構造評価とセル効率の評価および構造最適化 をおこなっていく.ただし,平成24年度における研究において,ホットウォールを用いても,SおよびZnの組成を十分に制御できない可能性が示されたために後硫化を検討するとともにZn含有率がCZTS薄膜の構造および物性に与える影響についてもより詳細に検討していく.
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費(消耗品購入)予算に充当する.なお,残金の発生は端数調整のためである.
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