研究課題
ホットウォール(高温の空間分離隔壁)をターゲット-基板間に設置し,ZnあるいはSの蒸気圧を調整することを可能とした高周波マグネトロンスパッタリング法によりCu2ZnSnS4(CZTS)太陽電池光吸収層薄膜を,Cu2ZnSnS4(CZTS)焼結体ターゲットを用いて堆積し,その組成,構造,および物性を解析するとともに,さらにS雰囲気下における後焼成による組成の制御を試みた.平成25年度の研究成果として以下を得た.●ホットウォールを用いたCZTS薄膜堆積における薄膜構造組成の改善を試み,ホットウォール条件400℃および基板温度条件200, 300, 400℃の条件において結晶粒径が16~24 nmとなる薄膜を堆積した.論文等で報告されているCZTS薄膜と比較して,十分に良い結晶性を示していると判断する.●上記条件において堆積されたCZTS薄膜は,2.1 eVのバンドギャップを示し,電気特性の最適化には至っていないと判断される.●ZnおよびS比を高めたターゲットを用い,ZnおよびS組成比を高くしたCZTS薄膜の堆積を試みたが,薄膜堆積時に再蒸発あるいは再スパッタリングが起こり,薄膜組成においてはZnおよびS組成比は高くならなかった.●基礎的な知見を得るためにS雰囲気下における後焼成をおこなった.S比が大きくなるとともに,結晶性が改善され, 1.8eV程度までバンドギャップが狭くなった.条件についてさらに検討し,これを一段階堆積法の成膜条件にフィードバックし,より良い薄膜特性をえることとする.●高いエネルギーを持つS負イオンが基板に入射し,薄膜にダメージを与えて結晶性を低くすると同時に,バンドギャップ等の物性にも影響を与えていることが,特に基板温度が低い場合に示された.
3: やや遅れている
平成25年度における,主たる研究の目的(ゴール)は,ホットウォール条件およびターゲット組成の最適化による電気および光学物性の最適化であった.平成25年度の目標に対する達成度は60%である.未達の部分はCZTS薄膜の電気的特性の最適化である.以下に詳細を報告する.●ホットウォール条件の最適化 達成度 80% ホットウォールの設置により量論比を持つ薄膜の堆積を可能とした.ホットウォールの使用による構造の制御という応募時の計画をほぼ達成したと判断できる.ただし,ホットウォール温度が高いため,プラスチック基板への応用を考えると,さらにHW温度を低くした条件において組成および構造の最適化をおこなう必要がある.外部には発表していないが,基板温度を低くした場合にS負イオンが薄膜構造に損傷を与えいることが実験結果から示唆されている.少なくとも,エロージョン対向部において薄膜が再度エッチングされ,見かけの膜堆積速度が遅くなっていることは確認されており,H26 年度に負イオンにおるエッチングが構造および物性に与える影響について検討をおこなう.●光学および電気的特性の評価および最適化 達成度 50% 電気的特性の評価および最適化においては,太陽電池光吸収層に適した狭いバンドギャップを得ることができなかった.電気的・光学的特性を十分に改善できなかった原因は,組成の制御が不十分であったことと考えている.特にZn 比を量論比より高くすることが,電気的特性の改善のためには必要であり,また,同時に薄膜あるいは界面の微細構造の制御が必要な段階に来ている.今後組成および構造と電気的特性の関係を再度評価し,組成と構造の制御による電気的特性の最適化を図ることが必須である.
平成26年度における研究の推進方策に,応募時点での研究計画に対し大きな変更はない.ただし,以下の2点の条件検討を追加し,当初目的の達成を図る.第一にはZnおよびS組成の更なる最適化によるバンドギャップの狭小化である.第二は,負イオン入射の薄膜物性への影響の抑制による電気的物性の向上である.①組成の検討においては,ZnS層をZnおよびS供給層とする堆積についても検討し,セルの形成条件と構造を決める.具体的には,極薄ZnS層をCZTS層に挟み込むを多層構造を形成し,この極薄ZnS層をZnS供給層とする.これにより,ガラス基板上およびポリイミド基板上にZn過剰なCZTS層を形成する.②負イオン入射の薄膜物性への影響の検討においては,負イオン阻止電極を用いて負イオンの基板への入射を抑制し,その影響の低減を図る.阻止電位と,薄膜堆積速度,薄膜構造おび物性の関係を検討し,負イオン入射の抑制が物性向上に有為であるかを敢闘する.以上により,組成および物性の最適化をおこなった上で,ガラスおよびポリイミド基板上へのMo/CZTS/ZnS/ZnO太陽電池セルの堆積をおこない,セルとしての効率評価をおこなう.
未使用金端数としてH26年度に繰り越す.物品費に繰り入れる.
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The proceedings of the 12nd International Symposium on Sputtering and Plasma Processes, Kyoto, Japan, July 10-12, 2013
巻: 12 ページ: 288-290
巻: 12 ページ: 10-13