研究課題/領域番号 |
24656455
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 健 東京大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90435933)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 太陽電池用シリコン |
研究概要 |
固体シリコン内不純物液相のマイグレーション技術に関して以下の基礎検討を行った。 1) マイグレーションプロセスによる高純度化に関する熱力学的検討 不純物液相のマイグレーションによるシリコン結晶からの排出による不純物除去効果について熱力学計算による固体シリコン―不純物液相間の不純物分配の推算を行った。金属シリコンに含有される典型的な不純物のうち、リン・ボロン・アルミニウム以外に関しては、いずれも1ppmw以下まで低減可能であることが分かった。アルミニウムに関しては金属シリコンの溶融精製時に酸化処理を施すことが有効であると予想された。リン・ボロンに関しては熱力学データが不十分であり、推算には至らなかった。 2) 固体シリコン内不純物液相のマイグレーション挙動の調査 固体シリコン内不純物液相のマイグレーション速度の、温度、温度勾配の影響を調査するため、真空に排気した石英管内に配置したシリコン薄板の上方より、赤外線集光加熱器により加熱し、薄板下面から放射による冷却を促すことで、シリコン薄板の厚み方向に温度勾配を印加可能な加熱システムを作製した。 このシステムを用い、0.5~1mmの厚みのシリコン薄板に対し、薄板下面温度が1250~1350℃にて所定の時間の熱処理を行った。シリコン内部の不純物相の位置を赤外線顕微鏡システムを用いて観測し、マイグレーション距離を計測した。不純物液相のマイグレーション速度は熱処理温度の上昇に伴い増加し、1350℃にて50μm/minに達した。よってシリコン薄板中の不純物相のマイグレーションによる除去が十分高速に行えることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初H24年度の目標として、温度勾配下におけるシリコン中不純物液相のマイグレーション速度の調査を掲げていたが、広範な温度域で温度勾配下でのシリコン薄板の熱処理を行うことによりマイグレーション速度を測定し、その速度機構を明らかにした。またマイグレーションによる不純物相の除去プロセスによるシリコンの精製効果について、一部の元素を除きほぼ全ての主要な不純物元素に対して熱力学推算を実施することにより不純物の熱力学的挙動の予測を行い、その精製効果を提示した。よって、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度の検討により、シリコン中で不純物液相が高温側に移動する際に、初期には膜状に分布した不純物相が昇温により溶解とともに速やかに球状に凝集した後に、高温方向へ移動する傾向が見られられている。これに合わせシリコン結晶は不純物液相から再結晶するドメインにより分断され、より微細な結晶粒組織となることが分かった。これは当初期待した結晶性の向上に反している。 そこでマイグレーション過程でシリコン中の不純物液相が膜形状を維持することを企図して、マイグレーション処理に供するシリコン薄板中の不純物相の組織制御を試みる。不純物を含むシリコンからリボン引き上げ法など種々の手法でのシリコン薄板の作製を行い、薄板の面方向に平行方向への不純物相の分布の制御を試みる。これにより不純物液相からのシリコンの再結晶ドメインによる結晶粒の微細化を抑制し、結晶粒の拡大を狙う。 また、熱処理前後の結晶欠陥について、エッチピット測定と合わせて、ラマン分光測定によるラマンシフトと主バンドの半値幅の計測を行い、評価を行う。さらに本熱処理後のシリコンの、太陽電池用原料としての総括的な評価としてライフタイム測定を実施する。これらの分析結果について、熱処理温度条件ならびに初期の試料内の制御組織との相関性を評価し、マイグレーションに供するシリコンの適切な制御組織を決定する。 以上に関して得られる知見をまとめ、成果発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の開始当初には実験に供するシリコンを作製するための設備を整える計画であったが、特にシリコン中不純物液相のマイグレーション速度に焦点を当て研究を遂行するために、比較的平易な手法で作製した試料を実験に用いた。しかし上述の通り、シリコンの組織制御の課題が生じたためシリコン作製を厳密に行う必要があり、「次年度使用額」とを合わせて、試料作製用設備を改めて整える計画である。 またラマン分光等の各種分析ならびに試料調整を行うための諸経費、ならびに学術発表のため費用を支出する予定である。
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