研究課題/領域番号 |
24656460
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
兼松 秀行 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10185952)
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研究分担者 |
三浦 陽子 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (20456643)
高橋 美穂(田中美穂) 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (30236640)
生貝 初 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60184389)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 生物付着 / 原位置浄化 / 分離濃縮 / ストロンチウム / セシウム / 磁場 / バイオフィルム形成加速試験機 |
研究概要 |
バイオフィルムは細菌の作用によって材料と水環境との界面において形成される。材料の劣化につながることが多い。しかし産業的な観点からは、これを積極的に利用した工業プロセス、材料創製が望ましい。環境修復技術もその一つであり、バイオフィルムを利用した分離濃縮技術が可能となれば、新しいリサイクル技術の可能性が開かれることが期待される。本年度は、大気中の雑菌を用いて加速的にバイオフィルムを実験室中において形成させ、その中にいくつかの金属を濃縮させる可能性を検討した。底部に水槽を、上部に透明カラムを配し、これらを塩化ビニール製のパイプで連結した循環水系を構成した。カラム中には支柱を挿入しこれを用いてガラスの板状試験片(10×20mm)を固定した。用いた装置は基本的に図に示す構成をしているが、そのサイズはタンク容量約20Lの大型装置と約2Lの小型装置の二種類からなる装置を用いている。ポンプで水槽から浄水をくみ上げ、カラム中に流し、カラムから水槽へと戻すサイクルを数日繰り返した。カラムから水槽へと流れる浄水は、一度パイプから出て中間板に落下し、ここで側面に配置したファンから吹き付けられる実験室雰囲気と混ざり合い、水槽に落下し、これを繰り返すことによって雑菌が浄水中に混入し、ガラス試験片上でのバイオフィルム形成を促進した。実験終了後試料を取り出し、低真空SEM-EDXでバイオフィルム形成状況、元素分析を行った。元素分析は1000倍、10000倍の倍率で面分析を数点行ってその平均値を取り、ストロンチウムのバイオフィルム中への濃縮挙動を観察した。一日経過したあたりから、わずかずつSEMで観察した際に暗部のネットワークがみとめられ、これが暴露時間の経過とともに拡大するのが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東北大震災によって原子力発電所から放射能漏れの問題が浮き彫りとなった。放射性元素の除染の問題は、現在日本が抱える重要な問題であるとともに、これからのエネルギー社会にとっても解決しなければならない問題である。本研究は放射性物質の除染を想定して、ストロンチウムとセシウムについて、シリカと結合させてバイオフィルム中に濃縮・固化させることができる知見をもとに、鉄粉と上記化学物質を含む細菌含有水溶液の懸濁液中に磁場を適用し、鉄-タンパク質の結合を使って、鉄粉の動きを制御して細菌の運動を制御し、形成されるバイオフィルムの形態を制御して、その中にシリカを濃縮させ、上記化学物質の水溶液からの分離による除染の可能性を検討するのが本研究の最終目標である。本目的を達成するために、浄水を電磁ポンプにより循環させ、大気中の雑菌を系中に混入させ、この雑菌の作用によって、系中に別途も受けられたカラム中に設置された試料表面にバイオフィルムを形成させる装置を開発し、再現性などを確認した。この装置により、バイオフィルムを研究室雰囲気中に含まれている雑菌より再現性よく形成させる装置を反応容器として確立した。次にガラス基材上にバイオフィルムを同反応容器を用いて再現性よく形成させ、そのバイオフィルム中への元素の濃縮を主として低真空SEM-EDXにより観察した。その結果、浄水中に微量成分としての鉄、亜鉛が金属元素として濃縮し、また水中に含まれるシリコン成分、カルシウム成分が濃縮することがわかった。シリコンについては、ストロンチウムを担持することができる可能性があるために、そのあとに続く主目的であるところの、ストロンチウムなどの分離濃縮に期待できる。ストロンチウムにまず着目し、塩化物の形で、系内にppmオーダー混入させ、バイオフィルム中への濃縮を調べ、同元素が数パーセントのオーダーで濃縮することが確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
最終的にストロンチウム、セシウムをバイオフィルム中に分離濃縮することが本研究の目標である。分離濃縮のための装置の開発は終了し、バイオフィルム形成は確認できた。また形成されたバイオフィルム中へのストロンチウムの濃縮も一応確認できている。今後は次の諸点について検討する予定である。 (1) 装置の改良について: バイオフィルムの成長をより加速させるために、現在いくつかの改良案をたてている。現在の装置は冷却水系におけるパイプ内壁のバイオフィルム-スケールにヒントを得て作製したものであるが、もっと簡易的で再現性よく短期間にバイオフィルムを人工的に形成させることができないかと考え新しいタイプの反応容器を作製中である。これに関しては、現在の装置系に対して基材に電気化学的信号を送ることができる装置の改良も視野に入れている。また当初計画通り磁場をかけることができる構成を検討する。これらの検討はすべて、バイオフィルムをより速く、また厚く材料表面に形成させるための方策である、その結果ストロンチウム濃縮の度合いを上げたいと考えている。 (2) ストロンチウムだけでなく、セシウム濃縮の可能性を検討する。 (3) これら濃縮可能な元素についてのメカニズムを検討する。当初予想しているシリコン化合物により担持されているか、あるいはEPS(細胞外重合物質)と金属元素が結合しているのかを明らかにすることは大きな意義があり、またよりいっそう大きな波及効果が期待できる。 (4) 現在検討している濃縮のめどがついた段階で、分離プロセスの検討とその可能性の提案を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度購入予定の物品は、 (1)装置の改良に関する消耗品、(2)薬品類、(3)分析関連の諸経費に集約できる。また旅費としては、成果発表のための国内移動費、国際会議出席のための海外渡航費滞在費を計画している。謝金その他は現在のところ考えていない。
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