研究課題/領域番号 |
24656466
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
山本 辰美 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 助教 (60220480)
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研究分担者 |
中村 真人 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (90301803)
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キーワード | 微粒子形成操作 / 人工赤血球 / コーヒーステイン現象 / スクリーン印刷 |
研究概要 |
平成24年度は空気中へのインクジェット吐出噴霧乾燥法によりヒト赤血球とほぼ同じ大きさ(平均径6μm)のヘモグロビン含有球状ゲル粒子ができることを確認したが、平成25年度は、コーヒーステイン現象による凹みの実現を試みた。インクジェット吐出装置、マイクロシリンジディスペンサー装置を試作し、表面にフッ素樹脂をコーティングしたガラス板上に粘度の異なる数種類のアルギン酸ナトリウム水溶液(0.1wt%程度)を滴下し、着床後の液滴形状変化を顕微鏡観察により評価した。撥水面に着床した後、やがて液滴表面は乾燥をはじめ着床面に固定化され、内部の水分移動によって中央部が凹むセルフピンニング(コーヒーステイン現象)が発現した。液滴径の経時変化は、着床時の滴径とセルフピンニング開始時間で基準化され、初期液滴径に依らず相似形が保たれていることが明らかになった。アルギン酸濃度をある程度以上に高くすると、複数の凹みが出現することがわかった。更に水溶液にヘモグロビンを含有させた場合には、疎水面とヘモグロビン分子の親和力により着床後の液滴径の減少率は抑制された。 個々の液滴についての観察の次に、いかにして塗付量を一定にして大量に作るかという課題に対して、印刷技術の応用に着目した。印刷技術は高精度印刷と同時に、大量生産にも有利な手法である。スクリーン印刷の原理で、直径15、30μmの孔の空いたステンレス版を準備し、インク溶液で印刷を試行した。30μmの孔では印刷されたが、15μmの孔ではほんの一部が印刷されただけであった。また、同様にフォトリソグラフィ技術を利用して、直径10μmのくぼみを持つ版を作製した。このくぼみに溶液を入れて、乾燥を図った。実験を施行したが、アルギン酸溶液がはじかれて、くぼみに入っていかないことが問題となっている。現在、対策を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤血球サイズ(直径7~8μm)の均一な微粒子を作製する技術はきわめて希少である。申請者らはインクジェットで空気中に液滴を打ち出して乾燥させる技術で、それを可能にしてきた。しかし、この手法で出来上がる粒子はほぼすべて球形であり、赤血球のくぼんだ形状とは異なる。そのため、物性や変形能、酸素運搬能など流体力学的にも生理学的にも大きく異なっている。特に内径数μmの毛細血管を赤血球が通過することができるのは赤血球のくぼんだ形状のおかげと言われている。そこで、本研究では、赤血球様の形状をした人工微粒子の作製法にチャレンジし、それを確立すること、さらに工業的大量生産にも対応できる基礎技術へと進めることを目指した。 赤血球のくぼんだ形状を作製するためにコーヒーステイン現象に着目し、平成24年度・25年度の2年間で、個々の液滴の乾燥に伴う形状変化を観察する設備を整え、液滴観察実験を行った。着床条件、乾燥工程を工夫することによって、凹んだ赤血球の形状にできることを確認した。大量生産に対応する方法として、印刷技術に着目した。インクジェット印刷、スクリーン印刷、平板印刷で赤血球サイズの印刷のそれぞれの準備をはじめ、試行を開始した。それぞれ、赤血球形態の粒子の作製にはまだ至っていないが、印刷条件の検討、いろいろな印刷方法、作製方法を考案し、可能性にチャレンジしているところである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の目標としていた「赤血球状ゲル微粒子の形成」は、単一粒子レベルではほぼ達成されており、大量生産段階には未だ時間が必要であるものの、そのための実験用の装置や技術の準備が整って、試行実験ができるようになってきた。印刷技術で赤血球形状を確実に作る技術を確立させる研究を進めるとともに、技術の調査や情報収集のために学会参加を予定している。 今年度使用額は僅かであるが、更に追加実験データの取得に必要な実験消耗品(主に試薬類)と、学会出張のための旅費として使用する予定である
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の目標としていた赤血球状ゲル微粒子の形成は、単一粒子レベルではほぼ達成されており、大量生産段階には未だ時間が必要であるものの、途中経過として外部の評価を仰ぐべく学会での発表を予定していたが、発表に耐えうる実験データの取得に手間取り、発表申込期限を過ぎてしまった。そのため、当年度の学会出席のための支出はなく、今年度の学会では、技術の調査や情報収集に加えて、途中経過の発表を行いたい。 今年度使用額は僅かであるが、更に追加実験データの取得に必要な実験消耗品(主に試薬類)と、学会出張のための旅費として使用する予定である。
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