研究課題/領域番号 |
24656468
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田門 肇 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30111933)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 骨補填材 / 連通多孔構造 / 一方向凍結 / 焼成 / リン酸カルシウム系セラミ |
研究概要 |
骨補填材作製過程は,①有機ゲルや複素環構造を側鎖に有する高分子を含有したアルコールにリン酸カルシウム系セラミックスを分散させる工程,②一方向凍結で組織侵入性(貫通性)気孔構造を形成させる工程,③凍結させたスラリーを凍結乾燥させて成形体を得る工程,④乾燥させた成形体を焼成する工程からなる。 レゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)ゲルをバインダーとしてヒドロキシアパタイト(HAP)粒子を成形し,焼成によって,細孔径100μm以上,圧縮強度2.3MPaの純アパタイトハニカムを作製した。原料として低結晶性ヒドロキシアパタイトを用い,遊星式攪拌・脱泡装置を使用せずに最も強度が高いアパタイトハニカムを作製できる条件を明らかにした。一方,遊星式攪拌・脱泡装置を用いてアパタイトをハニカム状に成形するためには,高速で一方向凍結を行う必要があることがわかった。以上のレゾルシノール-ホルムアルデヒドゲルをバインダーとする方法では,細孔径100μm以上,圧縮強度10MPa以上のアパタイトハニカムを作製することは困難であった。 次に,t‐ブタノール(TBA)にバインダーとしてポリビニルピロリドン(PVP)を加え,HAP粒子を添加し,遊星式攪拌・脱泡装置で十分に分散させスラリーを作製した。スラリーを円筒状の型に入れ,一定温度に保った冷媒中に垂直に一定速度で挿入することにより, 円柱状の試料内部にマクロ孔のテンプレートとなるTBAの柱状結晶を成長させた。凍結後の試料から凍結乾燥によってTBAを除去しバインダーで成形されたHAPのモノリスを作製した。次に,空気雰囲気下で焼成することによって, バインダーを燃焼によって除去するとともに微粒子を焼結させ,HAPモノリスを作製することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レゾルシノールとホルムアルデヒドからゾル‐ゲル法で合成した有機ゲルやポリビニルピロリドン(PVP)を成形用のバインダーとして使用した。有機ゲルやPVPを含有したt-ブタノール(TBA)にヒドロキシアパタイト(HAP)粒子を分散させてスラリーを調製した。スラリーを円筒状の型に入れ,一定温度に保った冷媒中に垂直に一定速度で挿入することにより, 円柱状の試料内部に連通気孔のテンプレートとなる柱状氷晶を成長させ,凍結乾燥によって骨補填材前駆体を作製した。次に,空気雰囲気下で焼成することによって, バインダーを燃焼によって除去するとともに微粒子を焼結させ,HAPモノリスを作製することに成功した。また,連通気孔を有するモノリスを作製できる焼成温度,焼成時間,昇温速度を詳細に検討した。 有機ゲルをバインダーとして使用して,細孔径100μm以上,圧縮強度2.3MPaの純アパタイトハニカムの作製に成功したので,平成24年度の研究目的はほぼ達成できていることが分かる。 上述のように研究は順調に進展しているが,レゾルシノール-ホルムアルデヒドゲルをバインダーとする方法では,細孔径100μm以上,圧縮強度10MPa以上のアパタイトハニカムを作製することは困難であることが判明した。したがって,今後は,ポリビニルピロリドン(PVP)を成形用のバインダーとして使用する方法に検討を加える必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では, 骨伝導性が高く,生体親和性に優れた高強度骨補填材を開発することを目的とする。具体的には,ヒドロキシアパタイト(HAP)粒子あるいはリン酸三カルシウム(TCP)粒子を含有するスラリーの一方向凍結によって氷晶を成長させ,凍結乾燥によってマイクロハニカム状に成形し,空気焼成によってバインダーを分解して,100μm以上の連通気孔径,10MPa以上の圧縮強度,優れた骨伝導性をもつ純HAPモノリスあるいは純TCPモノリスを作製する手法を確立する。 本年度の研究で,レゾルシノール-ホルムアルデヒドゲルをバインダーとする方法では,細孔径100μm以上,圧縮強度10MPa以上のアパタイトハニカムを作製することは困難であることが判明した。そこで,平成25年度は,バインダーと溶媒の再選定,一方向凍結条件と空気焼成条件の再検討により問題点を解決する予定である。 具体的には,骨補填材の作製条件,構造解析,一方向凍結時の熱流束シミュレーションにより,多孔構造の制御因子を明確化する。また,モノリスの高強度化のためには,気孔を形成する壁厚の増加,焼結の適切な進行が重要である。壁厚の増加には,セラミックス粒子濃度と凍結速度の増加が有効である。焼結を十分に進行させるには,バインダーの種類,溶媒の選定,昇温速度,焼成温度に詳細な検討を加える必要がある。したがって,本年度の研究実績に基づいて,ポリビニルピロリドンを含有したt-ブタノールにリン酸カルシウム系セラミックスを分散させて作製したスラリーを使用する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)多孔構造制御 高強度で連通気孔をもつ骨補填材を作製するには,気孔率,気孔径,壁構造を制御する必要がある。骨補填材の作製条件と構造解析結果より,多孔構造の制御因子を明確化し,100μm以上の連通気孔径をもつ骨補填材を作製する。モノリスのマクロ細孔径の制御因子としては,セラミックス粒子濃度,バインダーと溶媒の種類,凍結条件(凍結温度,凍結速度),焼成条件(焼成温度,昇温速度)が考えられるので,実験的に詳細な検討を加え,高強度の骨補填材が具備すべき多孔構造を明確にする。さらに,一方向凍結時の熱流束シミュレーションを実施し,理論的な裏付けを与える。本検討に物品費を使用する。 (2)モノリスの高強度化 骨補填材強度の制御因子を明確化し,圧縮強度10MPa以上の骨補填材を作製する。なお,荷重負荷による破壊試験によって作製した骨補填材の強度を測定する。モノリスの高強度化のためには,気孔を形成する壁厚の増加,焼結の適切な進行が重要である。壁厚の増加には,セラミックス粒子濃度と凍結速度の増加が有効である。焼結を十分に進行させるには,バインダーの種類,溶媒の選定,昇温速度,焼成温度に詳細な検討を加える必要がある。ポリビニルピロリドンを含有したt-ブタノールにリン酸カルシウム系セラミックスを分散させて作製したスラリーは有力な候補である。本検討に物品費を使用する。 (3)骨補填材としての評価と総括 骨補填材として使用するためには,強度と骨伝導性(組織侵入性)が重要である。骨伝導性評価を民間企業に依頼する。開発目標(連通気孔径:100μm以上,骨補填材強度:圧縮強度10MPa以上,骨伝導性の優位性)に基づいて材料を評価し,本研究を総括する。本検討のために国内旅費を使用する。
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