研究課題/領域番号 |
24656472
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 雅宏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10211921)
|
研究分担者 |
久保田 富生子 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60294899)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ナノリアクター / DNA / 融合タンパク質 / ナノマテリアル / 生体分子 / 自己組織化 / 分子集合体 |
研究概要 |
DNAやタンパク質は生体内で生命機能を維持するために必要不可欠な生体高分子である。一方で、それらの生体高分子は、それ自身が高度に設計された機能を有するため、大変魅力的なナノマテリアルといえる。したがって、様々な分野で、その本来の機能を超えた応用研究が展開されている。なかでも、異なる機能を有する生体高分子同士を連結させることで、多機能あるいは新機能を有する材料が数多く生み出され、新たな研究分野が展開されている。本研究では、DNAとタンパク質の機能に注目し、新たなナノマテリアル創製の方法論の確立とその反応工学的応用を目的に研究を行ったものであり、本年度は以下の成果を得た。 1. DNAとタンパク質を複合化させることで、双方の機能を利用可能な多機能性分子の創製が可能となった。本研究では、遺伝子組換えタンパク質の精製で汎用的に利用されているペプチドタグと金属錯体のアフィニティーに注目し、部位特異的にDNAとタンパク質を結合させる方法論を確立した。モデルタンパク質として、金属錯体と結合するペプチドタグ(His-tag)を導入したアルカリフォスファターゼ(AP)を選択し、相補鎖DNAを提示したマイクロプレート上に、金属錯体を介したDNAとAPの複合化を行った。その結果、必要な因子が全て揃う場合にのみ、APは安定かつ触媒活性を保持した状態で連結固定化できることを明らかにした。 2. DNA-タンパク質複合体の応用として、マイクロプレート上に固定化したDNAに、特定の分子と相互作用するアプタマー配列を導入し、調製したDNA-AP複合体を利用した新規分析システムを構築した。ターゲット分子として、血液疾病に関わるタンパク質、トロンビンを選択した。トロンビンの存在により、APの固定化量が変化することを明らかにし、トロンビンの濃度に応答したAP活性の変化を観測できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、ナノ分子集合体である脂質ベシクルで構成したナノリアクターに、DNA鎖を認識素子として組み込み,ナノリアクター同士の衝突・融合(混合)を制御した指向性を有するナノリアクターを構築できた。具体的には、各反応基質を脂質ベシクル内に別々に内包させ、この脂質ベシクル表面上には合成DNAとその相補鎖DNAからなる界面活性剤をそれぞれ独立に埋め込み、DNA鎖の二重らせん形成能(ハイブリダイゼーション)により、人為的に目的のベシクル同士を結合・融合させることに成功した。さらに,結合ならびに融合の順序をDNA鎖により制御し,ナノリアクターの融合(混合)を人工的に制御したナノ反応場の構築に成功した。 具体的な実績としては、下記のように目標を達成できた。 接着素子としてのDNA界面活性剤の合成法を確立: 合成DNAとオレイン酸を縮合し、界面配向性を有するDNA界面活性剤を合成した。このDNA界面活性剤を脂質ベシクルに組み込んだ。 ・DNAハイブリダイゼーションによる脂質ベシクルの会合および融合実験:金属イオンの添加や光照射などの化学的・物理的刺激によりDNAにより会合した脂質ベシクルを融合させ、内包反応基質をの融合に成功した。 本ナノリアクターを用いた選択的融合技術の確立 孤立空間内反応場の特色を生かし、脂質ベシクルそのものを鋳型とする反応を検討した。具体的には、生理活性物質であるトロンビンの高感度検出に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、脂質ベシクルという比較的合成化学的には大きく、かつ機械工学的には小さな分子集合体(数百nm~1 μm)を合成DNA(数nm)というごく小さな分子(分子素子)によりその運動性を制御し、ナノリアクターに展開することを目標とする。 これまで報告されているDNAを構造体材料として利用した研究では基本的には、DNA自体が構造物の骨格をなす。一方、本研究では、様々なDNA配列をナノリアクターの指向性シグナル(接着素子)として用いることによりナノリアクターの選択的混合(融合)の順序に多様性を持たせることが特色である。例えば、複数のDNA鎖を認識素子としてベシクルに組み込むことによって、ランダムに存在するナノ集合体(粒子)の中から、任意のナノ集合体のみをDNAでラベル化し、選択的に融合(混合)・反応させることが可能となる。本手法が確立できると、無数に存在するナノ粒子の中から、特定のナノ粒子のみを混合させ得るような指向性を有するナノ反応システムの構築が実現できる。このように、これまで不可能だった、ナノ滴同士の特異的な衝突および混合操作が可能となるような手法を確立する。 具体的な実験は、下記のように計画している。 人工合成DNAを鋳型とする新規タンパク質連結法の確立を行う。トロンビン間隔を制御した鋳型を構築し、トロンビンと結合するDNAアプタマーによって、鋳型DNA上にトロンビンを配列可能であることを明らかにする。さらに架橋剤を添加し、鋳型DNAが存在することで、効率的にトロンビンを連結することを明らかにしたい。また、抗体であるIgEを末端に修飾したIgE-トロンビン連結体(異種タンパク質連結体)の構築を試み、鋳型DNAの存在によって、抗体とトロンビンという異なるタンパク質同士においても連結が可能であることを明らかにしていきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画を遂行するための主な設備は,これまで研究室で蓄積した設備にて,ほぼ賄うことが可能であると考えている。本研究の特殊事情として,DNAをリポソーム間の接着素子として使用するため,大量のDNAが必要となる。このため,相当量の経費をDNA試薬の購入費として計上している。 設備備品としては,単一膜ベシクルを作成するためのプローブ型超音波発生器を計上している。また,一定温度下(特に室温以下)で,反応されるための低温式の恒温槽の購入を予定している。さらには,加温しながら,リポソーム反応を行うための加温式のスターラーの購入を計画している。 これら設備備品及び消耗品の他,化学工学会などの年次大会での研究成果発表ならびに情報収集のための旅費を支出として計上している。また,資料整理のための謝金,論文投稿の際の英文校閲費もあわせて計上している。
|