研究課題/領域番号 |
24656477
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
増田 隆夫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20165715)
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研究分担者 |
多湖 輝興 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20304743)
中坂 佑太 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30629548)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオマス / グリセリン / アリルアルコール / ギ酸 / 酸化分解 / 酸化鉄系触媒 / 水 / アルカリ |
研究概要 |
本研究では,直鎖多価アルコールから,二重結合を有するアリル化合物の直接合成を可能とする触媒反応プロセス開発を実施する.触媒としては,酸化鉄(Fe2O3)を基材とし,酸化活性の向上を目的とした成分(MOx:ジルコニアなど)と塩基性の賦与を目的とした成分(アルカリ金属)を担持した触媒を開発する. ZrO2-FeOx およびK 担持ZrO2-FeOx を用いて30wt%試薬グリセリン水溶液を反応させた.ZrO2-FeOx と比較し,K 担持ZrO2-FeOx では触媒の固体酸性質に由来するグリセリンの脱水により進行する反応経路やアルデヒド生成が抑制され,アリルアルコール収率が大幅に増加した.グリセリンへの水素添加経路を検討するため,アリルアルコール以外の各反応中間体を反応系に添加してグリセリンの転換反応を実施した.その結果,アリルアルコール収率は26mol%-C 程度であり,グリセリンのみを供給した場合と同程度であったことから,中間体からの水素供与反応は進行していない. 一方,ZrO2-FeOx 触媒は水分子を分解し,水素活性種を生成する.従って,水分子由来の水素活性種が触媒表面からグリセリンに供給された結果,アリルアルコールが生成したと考えられる.上記の検討から,触媒表面上に水素原子を生成させることによりアリルアルコール収率の向上が期待される. そこで,水素を容易に生成するギ酸を反応系に添加した検討を行った.無触媒でのグリセリンとギ酸の反応後は,水素とアリルアルコールはほとんど生成しなかった.一方,同原料をK 担持ZrO2-FeOx 上で反応させた場合,添加したギ酸濃度の増加に伴いアリルアルコール収率が約36mol%-Cまで増加した.これは,ギ酸由来の水素原子が触媒表面上に供給され,グリセリンの脱水反応が促進したためと推測される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は次の事項について研究を実施した. (1)アルカリ金属担持MOx-Fe2O3触媒開発 Fe2O3の酸化活性の向上を目的とし,第二添加成分を検討した.第二成分(MOx)としてZrO2,CeO2,Al2O3,TiO2のそれぞれの硝酸塩をFe硝酸塩の混合水溶液から共沈法によりMOx-Fe2O3触媒を調製した.また,カルボン酸吸着能は,触媒の塩基性に起因するため,担持量を変えてKを添加することで塩基性を触媒に付与した. 特に,K を担持したZrO2-FeOx触媒は固体酸性質が抑制されることで酸性活性点由来のグリセリンの脱水により進行する反応経路やアルデヒド生成が抑制され,アリルアルコール収率が大幅に増加させることに成功した. (2)触媒性能最適化(エチレングリコール,グリセリンからのアリル化合物合成) ZrO2-FeOx 触媒は水分子を分解し,水素活性種を生成する.そのため,水分子由来の水素活性種が触媒表面からグリセリンに供給された結果,アリルアルコールが生成したと考えられる.そこで,水素を容易に生成するギ酸を反応系に添加し,更にギ酸の分解能を促進する塩基性を触媒に付与したK 担持ZrO2-FeOxを用いた結果,ギ酸濃度の増加に伴いアリルアルコール収率が約36mol%-Cまで増加した.この様に,触媒の塩基性と酸化能の両面で触媒を設計することでアリルアルコール収率が向上できることを見いだした.上記より,当初の目標を概ね達成したものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果を基に,平成25年度は次の事項について研究を進める. 1)グリセリン,エリトリトールからのアリル化合物を合成: 平成24年度の結果から得られるアルカリ金属担持MOx-Fe2O3触媒を用い,多価アルコール(グリセリンなど)からアリル化合物の選択合成を実施する.平成24年度では触媒組成の最適化が中心であったが,平成25年度は反応条件の最適化を中心に検討する.本反応系では,メタノールから生成する蟻酸がアリル化合物収率向上のために不可欠である.従って,次の2点を中心に検討を進める. 触媒上での蟻酸吸着量を向上させるためには,メタノール添加量を大きくする必要がある.一方,メタノールの酸化反応は,Fe2O3の格子酸素を使用する反応である.そのため,Fe2O3触媒上での過剰量メタノールの酸化により,Fe2O3触媒の結晶構造変化と触媒構造が崩壊する可能性がある.そこで,メタノールと多価アルコールの濃度比がアリル化合物収率に及ぼす影響を明らかにする(中坂担当). また,メタノールの酸化を促進するには,反応温度を上昇させる必要があるが,その場合,生成蟻酸の脱離とメタノールの完全酸化が予測される.さらに,過剰な反応は触媒の劣化(Fe2O3の還元によるFe3O4生成,触媒の構造変化)を引き起こす可能性がある.そこで,反応温度の影響を明らかにする(多湖担当). 2)BDF製造時に副成する粗製グリセリンからのアリル化合物合成: 粗製グリセリンには,水,アルカリ金属,メタノールが含まれている.従って,上記検討で得られるアルカリ金属担持MOx-Fe2O3触媒は,粗製グリセリンに対し有効に作用すると期待できる.原料に不純物として含まれるアルカリ金属は,反応中に触媒表面に吸着し,触媒の塩基性の維持に寄与すると期待される(増田担当).
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究成果により、グリセリンに蟻酸を添加することでアリルアルコール周露角工場の可能性を見いだした。そこで、平成25年度では蟻酸のグリセリンへの添加量の影響を調べる。そこで、蟻酸の購入経費として平成24年度から平成25年度への繰越金の10,488円を活用する。
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