マイクロ波照射下で促進される電子移動反応を実証する実験データを系統的に蓄積した。 水中におけるニッケル金属からビオロゲン誘導体分子に対する電子移動還元反応速度に対するマイクロ波促進効果を明らかとし、その速度論的解析を行った。ビオロゲン誘導体を溶解した水中にニッケル金属粒子を分散し、マイクロ波加熱および通常加熱の条件下で、ニッケル金属からビオロゲン誘導体への電子移動によるビオロゲン誘導体還元反応を溶液の吸収スペクトル測定により追跡し、マイクロ波照射下では、同じ温度の通常加熱に比較し、還元反応が数倍加速されることを明らかとした。この加速効果は、電子受容体であるビオロゲン誘導体の還元電位が負側にあるほど、大きく観測されることがわかった。ニッケル金属粒子表面にビオロゲン誘導体が吸着するモデルを作り、ラングミュア‐ヒンシェルウッド型の速度式により還元挙動を解析し、表面における電子移動速度定数を得ることができた。この電子移動速度定数にマーカス理論を適用するとによって、この促進効果が、再配向エネルギー変化よりもむしろ、電子軌道関数の重なり積分項の変化に起因しているとの仮説に至った。 硫化カドミウムからビオロゲン誘導体への光誘起電子移動速度定数に対するマイクロ波照射効果を調べた。硫化カドミウムの発光寿命を計測することにより、表面に固定化した電子受容体としてのビオロゲン誘導体への光誘起電子移動速度を測定した。マイクロ波照射下で、この電子移動速度が加速される結果を得た。 以上、酸化還元反応がマイクロ波照射下では加速される現象に対して、電子移動過程にマイクロ波が影響を及ぼしていることを直接示す実験結果を得ることができた。
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