研究課題/領域番号 |
24656489
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉田 朋子 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (90283415)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラズマ照射 |
研究概要 |
名古屋大学大学院工学研究科所有の直線型ダイバータプラズマ模擬試験装置NAGDIS-IIを用いてタングステン板に対して,Heプラズマ(He+)照射を行った.Heプラズマ入射エネルギー70eV,試料表面温度は1300Kでタングステン板(8mm×8mm)に1×1025 / m2照射したところ,照射後には試料には光沢が無くなり黒色に変化した.光反射・吸収スペクトルを測定した結果,Heプラズマ照射後には,1.2eVから6eVにかけてのブロードな吸収帯が発現することが分かった. He照射後の試料表面に対してSEM測定を行った結果,平均幅数十nm程度の樹枝状構造が形成されていることが分かった.この試料を773Kで酸化処理すると,この樹枝状構造の平均幅が2倍程度まで大きくなり表面積の減少も示唆されたが,473Kで酸化処理後の試料表面は酸化処理前の試料表面と比べても樹枝状構造の平均幅には大きな変化は見られなかった.473Kの大気中加熱処理でも,ナノサイズの樹枝状構造は基本的に保たれていることが確認できた. He照射後の試料についてTEM測定を行った結果,樹枝状構造の幅が30nm程度であることや,樹枝状構造内部には十数nm程度の大きさのHeバブルが存在することを確認した.以上の結果から,He照射中にW材料中に生成する熱空孔(ホール)周辺にHe原子がトラップされ,このHe原子が集まりバブルを形成しながらホールそのものを成長させWの樹枝状構造を形成すると推測した.また,樹枝状構造表面には数nm程度のアモルファス層が存在することを見出した.このアモルファス層は,He照射後の試料表面が酸化されてできたタングステン酸化膜と推測される.またこの膜は,試料表面に不均一に形成されていることも明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に関しては、当初計画を立てた通りに順調に進展していると言える。 プラズマ照射によるタングステン樹枝状構造の形成については、これまでプラズマ工学で蓄積された研究成果を参考に実験を行ったことが功を奏したと思われる。また、研究計画に即して、研究準備や環境を順調に整えているため、現在のところ計画通りに遂行できたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に得られた結果に基づいて,Heプラズマの照射条件を緻密に制御することにより,樹枝状ナノタングステンの幅や長さ,樹枝状構造同士の間隙(空隙)を様々に変えた試料を作製する.これらの試料を加熱酸化することによって,以下の2種類の触媒を調製する. 【触媒1】樹枝状ナノタングステンの表面をWO3膜で被覆した触媒を調製する.加熱時間と温度を制御し,WO3膜の厚さを数nm~数十nmの範囲で様々に変えた触媒を設計する. 【触媒2】加熱酸化条件を工夫して表面にWO3と金属Wが混在する触媒を調製する.この時,WO3と金属Wの組成比が様々に異なる触媒を設計する. 両触媒とも,加熱酸化によって樹枝状構造が消失しない温度と加熱時間を選択する.樹枝状構造が保持されていることや,WO3膜の厚さをSEM及びTEM観察によって確認・評価する.膜厚が薄い触媒ほど基盤となる樹枝状構造の影響を受け,配位不飽和サイトも多く,歪んだタングステン酸化物構造が形成されると予想しているが,これをXAFSによる触媒表面局所構造解析により検討する.また触媒表面の原子価状態やWO3と金属Wの組成比をXPS測定から決定することを計画している.
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次年度の研究費の使用計画 |
紫外光や可視光照射下で光触媒反応を行うため,光学フィルターを備えた高圧キセノンランプの購入が必要不可欠である.また光触媒反応における生成物の同定定量及び触媒活性評価のために,当研究室所有の真空排気反応ラインを改良し,ガスクロマトグラフを備え付ける.改良費とガスクロマトグラフ・クロマトパック購入費が必要とする. X線吸収スペクトルは,Spring-8,KEK-PF,UVSOR等の放射光施設において測定するため,ビーム使用料及び旅費を必要とする.また,タングステンへのHeプラズマ照射は,名古屋大学工学研究科所有のプラズマ照射装置を使用する.この使用料金を必要とする.またHeプラズマ照射時に必要となる高圧ガス及びタングステンをはじめとする金属試料も購入する予定である.
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