Heプラズマ照射により樹枝状ナノ構造を形成させたWを酸化させることで得られる樹枝状構造WO3光触媒の活性点および触媒反応メカニズムを明らかにするために,樹枝状タングステンの表面酸化状態を変化させた各試料を用いて,光触媒的分解活性を評価すると共に,この試料の光応答性や触媒劣化について調べた.その結果,この試料は広波長領域(紫外~近赤外)の光に応答し,波長800nm以上の近赤外光照射下においてもメチレンブルー(MB)等の有機物分解反応を促進することが明らかとなった. 表面酸化割合の異なる試料を作製して反応を行ったところ,表面酸化割合が20%,35%,60%と高くなるに従い活性が高くなるが,表面酸化100%の試料ではわずかに活性を示すことが分かった.これらの結果からこの試料の活性サイトは低活性なWO3と高活性なW-WO3界面であることが分かった.またこの反応は,ナノ構造化したW(0)サイトが近赤外光を吸収し,生じた励起電子がナノ構造化WO3の伝導帯に注入されて進行すると推測した. 最も高い反応活性を示した表面酸化60%の試料と活性の低い表面酸化100%試料について繰り返しMB分解実験を行い,触媒劣化について調べたところ,表面酸化60%の試料のみ2回目の反応実験において著しく活性が低下した.その原因を追究するために表面酸化60%,100%の試料のMB反応前後のXPS,SEM,XAFS測定を行った.表面酸化60%の試料では,MB反応後に炭素質の付着とW(0)のW(VI)への酸化が起こっていることや,樹枝状構造の肥大化が見出されたが,表面酸化100%の試料ではMB反応前後で殆ど変化はなかった.XAFS測定では,表面酸化60%の試料にMB由来のS種の吸着が検出された一方で,表面酸化100%の試料には,このような吸着は殆ど認められなかった.これらの結果から,触媒劣化の原因は,酸化力の強いMBが試料表面のW(0)への吸着および酸化を引き起こし,W-WO3界面が減少したことに起因すると結論した.
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