本研究では、変性状態の不溶性のタンパク質に対し、可逆的なSS結合を介して正電荷を導入して高い水溶性を付与する「可逆的変性カチオン化法」と、生細胞表面への静電的な吸着を介して細胞内に高効率にタンパク質を導入し、細胞質内の還元的環境下でタンパク質を活性構造に巻き戻す「in cell folding法」の両技術を効果的に活用して、動物細胞の表面やオルガネラに存在する膜タンパク質・受容体の前駆体タンパク質を細胞内に導入し、生理的な条件下で膜タンパク質を再構成・成熟化するための技術開発に取り組んだ。本手法の確立には、要素技術の強化が不可欠であったため、初めにin cell folding法を改善する鍵となるエンドソーム様の顆粒内から細胞質中への移行を促進する両親媒性ペプチドの併用条件を中心に、人工転写因子を用いた評価系で技術改善を進めた。その結果、培養上清にカチオン化タンパク質を添加した18時間後をピークとする一過的な導入・活性化が確認され、in cell folding法の技術水準の大幅な改善に成功した。次に、翻訳系を経ずに前駆体タンパク質を生細胞内で成熟化が進むことを確認するため、SS結合を介してカチオン化した前駆体タンパク質の細胞内導入を行った。N末端に分泌シグナルが付加した前駆体タンパク質をHeLa細胞をジギトニンで処理した半透過性細胞に添加した結果、ATP依存的なシグナルペプチドの切断が確認され、ヒト細胞内で翻訳系を経ない再活性化が可能なことが示唆された。さらに、生細胞に対してin cell folding法で再活性化を試みたところ、再分泌・再活性化されたタンパク質が検出された。しかしながらこの効率は極めて低率であり、膜タンパク質の再構成技術の完成にはさらなる検討・改善が必要なことが結論された。
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