研究課題/領域番号 |
24656520
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
麻生 茂 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40150495)
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研究分担者 |
谷 泰寛 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80380575)
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キーワード | 宇宙往還機 / モーフィング機能 / 再突入力学 / 有人宇宙輸送システム / ウエーブライダー / 揚抗比 / 再使用型宇宙往還機 |
研究概要 |
本研究の目的は、宇宙から地球上の全ての地点に着陸できるモーフィング宇宙輸送システムために、あらゆる飛行状態に対して順次最適な機体形状を取ることができるモーフィング機能(形状変更機能)を備えた有人宇宙輸送システムについての研究である。 今年度は、昨年度の研究成果を踏まえて、当研究室で開発した最も空力性能が高い三角形胴体断面の主翼付き機体形状をベース形状として、1)極超音速域において最も高い空力性能を示す機体形状を考察すること、2)風洞実験を行って極超音速域から着陸までのそれぞれの飛行フェーズに適した機体を見出すこととした。その研究実績は以下の通りである。 1)については、a) ウエーブライダー形状が基本的には優位なこと、b) 鋭いノーズ形状により造波抵抗は50%程度減少できること、c)翼面積が広いと揚抗比が高いこと、d)極超音速域・超音速域では機体全体を上下逆さまに反転させたほうがやや揚抗比が高くなること、e) 翼に下半角をつけても効果はないこと、f)ノーズ先端位置を機体中心軸に近く位置させたほうが揚抗比が改善されること、g)ノーズから翼に至る形状を滑らかにつなぐことで揚抗比はさらによくなること、を明らかにした。 2)については、ベース形状の機体模型に対して6種類の機体形状で風洞実験を行い、マッハ数に対する最大揚抗比の変化を明らかにした。また、着陸時にもっとも高い揚力を出す形状を明らかにした。 これらの成果は日本航空宇宙学会、国際学会、JAXA主催の学術講演会等で発表し高く評価された。来年度は、これらの成果を生かして引き続き研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画はさらに高い揚抗比の機体形状を検討し、もって極超音速から亜音速までの飛行領域にそれぞれ適したモーフィング宇宙往還機を提案することである。このため、昨年度の研究成果を踏まえて、当研究室で開発した最も空力性能が高いベース形状を起点に、1)極超音速域において最も高い揚抗比の形状の考察、2)風洞実験による極超音速域から着陸までの各飛行フェーズに適した機体を見出すこととした。その研究実績は以下の通りである。 1)については、a) ウエーブライダー形状が望ましいこと、b) 鋭いノーズ形状は造波抵抗は50%程度減少可能、c)広い翼面積は揚抗比を高くできること、d)極超・超音速域では機体全体を上下を反転させたほうが揚抗比が高いこと、e) 翼に下半角をつけても効果はないこと、f)ノーズ先端位置を機体中心軸に近く位置させたほうが揚抗比が改善されること、g)ノーズから翼に至る形状を滑らかにつなぐことで揚抗比はさらによくなること、を明らかにした。 2)については、ベース形状の機体模型に対して6種類の機体形状で風洞実験を行い、マッハ数に対する最大揚抗比の変化を明らかにした。また、着陸時にもっとも高い揚力を出す形状を明らかにした。 従って、高い揚抗比を有するモーフィング宇宙往還機としては、軌道速度からは空力加熱に耐える形状から大気圏に突入し、極著音速域では鋭いノーズ形状とウエーブライダー形状をベースとし、機体全体を上下逆さまに反転させて飛行し、超音速域からは反転して元の姿勢に戻り、亜音速域ではベースライン形状で飛び、着陸事はデルタ翼の面積を広げた形状で最大揚力を出して着陸するといった形態変化をするのが最も良いことが明らかとなった。これらの成果は日本航空宇宙学会、国際学会、JAXA主催の学術講演会等で発表し高く評価された。以上により今年度予定していた研究目的をほぼ達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度までの研究で、おおよそのモーフィング宇宙往還機の形態が見えてきた。その成果を生かして平成26年度は、地球周回軌道からの投入経路の計算を行いダウンレンジとクロスレンジを評価する。この時、極超音速域は、揚力が最大を示す迎角と揚抗比が最大を示す迎角が異なるので機体の迎角を変えながら突入パラメータ(W/CLS)と揚抗比L/Dの値を使って最もダウンレンジとクロスレンジが大きい迎角を求める。形状のパラメーターとしてはウエーブライダー形状をベースとして後退角、翼前縁の曲率半径であり、これを種々変化させて最適な形状を求める。また、それぞれの機体形状を連続的に実現していく仕組みについて検討する。この際、これらの三つの形状は全く独立ではなく、互いに最適な形状に近い形に変形をさせることを目指す。この研究には、学生2名(数値的研究及び実験的研究)を配置する。 最終年度であるから、上記の検討に加えて、1)過酷な空力加熱に耐えこともできるモーフィング機構、2)極超音速域から亜音速域までの滑らかな揚抗比の変化、3)モーフィング中の空力安定性、4)軌道から滑走路着陸までのシミュレーションを通して地球上のあらゆるところに着陸できるか、の観点から考察を深め、最終的に、それぞれの飛行領域において最適に近い空力性能を出すことができるモーフィング機能(形状変更機能)を備えた有人宇宙輸送システムを構築する。さらに、モーフィング工学としての成果のまとめを行い、モーフィング工学創成に向けてまとめを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
極著音速域での空力性能を最終的に確認するために風洞模型を作製しようとしたが、JAXA宇宙科学研究所の風洞がマッハ数4の気流の発生ができなくなる不具合が発生したために、それに用いる新たな風洞模型製作を来年度に持ち越すことにしたため。 実験には、九州大学に設置された超音速風洞(縦250mm,横200mm)、低騒音風洞(幅2m、八角形、最高風速60m/s)及び宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部の高速風洞群を用いる。風洞実験のために模型材料、モーフィング機構を確認するための電子部品、制御用パソコン等の費用が必要である。空力性能の空力性能のCFD解析と地球軌道から滑走路までの帰還推算をすることによる成立性確認のためには、計算機が必要である。研究成果の発表と資料収集、情報収集のために旅費が必要である。平成26年度においては、配布される助成金110万円と前年度に残った助成金(約15万円)については85万円を物品費に充当し、残り40万円を旅費に充当することを計画している。院生も学会発表に派遣する。 以上の研究経費を共同研究者である谷 泰寛准教授とともに使用する。
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