本研究の目的は、海面からのレーダ信号に含まれているシークラッタ(海面からの反射)を分離・抽出可能なレーダ技術を開発することである。レーダ信号の基本特性を解明するために、海面上を船舶等のターゲットが動く場合のレーダ信号を解析可能な数値シミュレーションモデルを開発した。解析手法としては物理光学近似を用い、パルスドップラーレーダが受信する海面とターゲットからの信号を再現し、後方散乱強度やドップラースペクトルの特性を調べた。その結果、風速が小さい場合には、後方散乱強度の違いからターゲットを識別できるが、風速が大きくなると海面からの後方散乱強度が大きくなり、ターゲットの識別が困難になることがわかった。一方、ドップラースペクトルについては、船舶位置において顕著なピークが生じるため、この特性を船舶の探知に応用することが考えられる。実際の海域におけるレーダ信号を解析する必要があるため、平塚沖総合実験タワーにおいて現地観測を実施することにした。観測に使用したのは、回転式アンテナのパルスドップラーレーダである。静穏時(風速5.3m/s、有義波高0.5m、有義波周期7.8s)のレーダ信号を解析したところ、従来手法と同様に後方散乱強度のデータからでも船舶位置を識別することができた。しかし、荒天時(風速20.8m/s、有義波高2.0m、有義波周期5.8s)にはシークラッタが大きくなり、相対的に船舶と海面の後方散乱強度の差が小さくなる傾向となった。実際には、このとき海域に船舶は存在していなかったが、このような場合には船舶の識別が困難になる。また、船舶が存在する場合には、ドップラースペクトルに顕著なピークが生じており、数値シミュレーションで得られた結果を現地観測データでも確認することができた。これらの成果から開発したレーダ探知アルゴリズムにより、シークラッタを低減させることが可能となった。
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