タングステンは核融合炉におけるダイバータ、第一壁材料として期待されているが、特に中性子照射環境下における脆化が懸念される。また、タングステンの融点は非常に高いものの、1000℃程度の再結晶温度以上では靱性は低下してしまうため、使用上限温度が制約を受けてしまう。本研究では、タングステンに対してセラミックス長繊維での強化という、セラミックス複合材料の破壊力学を取り入れた全く新しい手法により、中性子照射環境下、また再結晶温度を超えるような温度域においても優れた破壊靱性を得られる材料の開発を目的とした。 タングステン原料として、粉末または箔のタングステンを用いた。強化繊維として、SiC繊維等を用いホットプレス焼結を行った。焼結条件は1000~1800℃、20MPa以下の条件で試料を作製した。SiC繊維では、C被覆を施した繊維も用いた。作製した試料は強度評価し、微細組織、強度試験の破面は電界放射形電子顕微鏡等により観察を行った。 SiC繊維で強化した材料で、0.6μmのタングステン粉末を用いた場合、繊維束内にもタングステンが含浸し、比較的緻密な組織を形成したが、SiC繊維とタングステンの反応も進み、強度評価において、繊維の引き抜けによる延性効果を得ることができず脆性破壊挙動を示した。5μmのタングステン粉末を用いた場合、繊維束内へのタングステンの含浸が制限され、繊維とタングステンの過度な反応が抑制されたため、繊維の引き抜け効果を得ることができ、延性破壊挙動を示した。C被覆SiC繊維を用いた材料やタングステン箔を用いた材料に関しても、同様に引き抜け効果による延性挙動が得られた。実用化する上での製作性、タングステン自身の強度等の観点から、特にタングステン箔とSiC繊維を積層した材料を中心に開発を進め、タングステンの再結晶温度以上でアニールしても延性挙動を示す材料の開発に成功した。
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