研究課題
X線コンピュータ断層撮影(CT)によって癌を発見するためには,ヨウ素造影剤を用いる.これは,癌組織と正常組織とのX線線減弱係数があまり違わないためである.癌組織の方が血管の割合が高いので,血管に注入したヨウ素の含有割合が高く,観察しやすくなる.しかし,ヨウ素造影剤には副作用があり,約1万人に一人の割合で死者が出るので,ヨウ素造影剤を使用せずに癌の発見ができることが望ましい.このためには,人体内部の原子番号分布の測定を行い,正常組織中に原子番号が異なる部分を発見することが良い.原子番号分布の測定には,理想的には2種のエネルギーの単色X線を用いる.この代替として,2種のフィルタを用いたフィルタX線を利用することを考えた.しかし,単色性を高くしたフィルタX線とするには,厚いフィルタが必要となり,結果としてX線数が激減する.そこで,当研究室で開発したエネルギー分解CT測定において,エネルギー範囲を狭く設定した領域を2つ定義し,白色X線の中から擬似単色X線を2種類,取り出すこととした.本手法で求めたアクリル(軟組織代替物)とアルミニウム(骨代替物)の実効原子番号と,デュアルエネルギーCTで求めた実効原子番号とを比較した.その結果,デュアルエネルギーCTにおいては,被検体中での低エネルギーX線の吸収によりX線エネルギースペクトルが変化するので,実際の原子番号から大きくはずれる値となることが分かった.また,2種の単色X線を用いて水の実効原子番号を求めた結果とも比較した.単色X線を用いても水の実効原子番号は2%程度の誤差があるが,本手法で求めたアクリルおよびアルミニウムの実効原子番号は1%以下の精度で求めることができた.さらに,水および砂糖水の実効原子番号の評価を行い,3%程度の誤差で値を得ることができた.
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