光周性は、生物が1日当たりの日照時間を測定し、その長さに応じて生理的な反応を引き起こすメカニズムのことを言う。本研究の目的は、遺伝学実験が可能な新たな光周性のモデル生物を確立することにあった。ショウジョウバエ科(Drosophilidae)の昆虫は、世代時間が短く、室内での大量飼育が可能なため、遺伝学モデルとして最適である。 私は、光周性を示すことが報告されている複数のショウジョウバエ種を収集し、モデル生物としての飼育の難易度等のモデル生物としての適性を比較検討した。 マエグロハシリショウジョウバエ(Chymomyza costata)は、短日条件において幼虫休眠を行うことが知られている。私自身も継代飼育及び光周性休眠の誘導に成功した。また、光周性に関わるとされる神経回路の免疫染色にも成功した。しかしながら、同種は世代時間が1ヶ月程度とやや長く、産卵数も少ないため、大量飼育が困難であることがわかり、遺伝学実験に適しているとは言えないと判断した。 次に注目したのがDrosophila putridaである。同種は春に羽化した個体と夏に羽化した個体で体色が異なることが知られていた。私はこの体色の変化が光周性によって制御されていることを発見した。これは双翅目における光周性体色変化の初めての例である。飼育培地の最適化により、D. putridaの大量飼育法の確立にも成功した。同種を用いて化学変異原による変異誘発のパイロット実験を行った。約2000ゲノムをスクリーニングした結果、yellowやwhite等の変異体が得られた。D. putridaにおけるトランスジェニック作成も試みた。D. melanogasterと同じ方法でDNA微量注入を行ったところ、ほとんどの胚が死んでしまった。今後、方法の最適化が必要である。
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