菌類は陸上だけでなく河川にもみられ、落葉や枯死木上だけではなく、河床の石や礫のような無機基質の表面にも生息している。石上付着性の菌類は有機基質に付着する菌類とは異なり、基質から直接的にエネルギーや栄養塩を得ることができないため、河川水に溶存する栄養塩や有機物の量や種類に強く影響を受けると推測される。そこで本研究は、真菌類と偽菌類を対象に、石上付着性菌類の時空間的な群集構造の変化とその要因を明らかにするための野外調査と現場実験を、宮城県仙台市を集水域とする名取川において実施した。採取年度にあたる本年は、これまで採取した試料と野外実験で得られた試料の分析を行うとともに、土地利用解析等を実施して最終とりまとめを行った。 【主な研究成果】河川上流域から河口までの石上付着性菌類の群集構造を詳細に調べたところ、種の豊富さは秋に下流域に向かって有意に増加すること、その群集構造は上流と下流との間で入れ子構造にはなっておらず、多くの構成種が入れ替わることがわかった。この結果は、河川周辺の植生や土地利用に応じた水質や有機物の変化にともなって石上付着性菌類の群集構造が空間的に変化することを示唆している。そこで、菌類の種組成と、河川に溶存する有機物や栄養塩の量、および土地利用や被覆との関係を調べたところ、名取川の石上菌類群集の種組成の流程間での違いは土地利用や被覆と密接に関係していることが示された。すなわち、河川の石上付着性菌類の群集構造は、集水域の土地利用や被覆の変化によって供給される多様な有機物に支配されいることが示唆された。また、石上の付着藻類の成長・繁殖と菌類の群集構造との関係を野外操作実験により調べたところ、河床の付着藻類は多様な菌類の定着や成長を促進するだけでなく、菌類の群集構造をも変化させることが示唆された。
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