研究課題/領域番号 |
24657014
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 正和 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (40178950)
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キーワード | 表現型可塑性 / 細胞伸長 / 変動環境 / 1細胞培養計測系 / 大腸菌 / ストレス / 貧栄養環境 / SOS遺伝子の発現 |
研究概要 |
代表的な単細胞生物である大腸菌は、さまざまな環境要因によって細胞が伸長する表現型可塑性の現象が知られている。例えば、貧栄養条件で細胞が伸長する報告、逆に富栄養条件に置くと細胞が伸長するとの報告、さらには、捕食者の原生生物(テトラヒメナ)を培養してカイロモンが混じっている培養液で飼育すると捕食防衛のために細胞が伸長する報告など、いまだに結論が出ていない。よって、1細胞培養計測系を用いて体系だった実験デザインで、大腸菌をさまざまな栄養条件に置くことで、どのような遺伝子が発現するのかを、精密に測定することを試みた。 大腸菌内でのプロモーター活性を蛍光シグナルを利用して調べた結果、増殖に伴い、一部の細胞において、SOS応答とDNAの組み替えに関わるrecA遺伝子が強く発現することを確認した。またrecAを強く発現する細胞の多くは細胞サイズの大きい伸長細胞であることも確認した。この結果から、細胞の密度増加とともにrecA高発現細胞が増える「密度依存仮説」をたて、培養開始後4時間後、6時間後、8時間後、11時間後のクローン細胞を捕集し、細胞伸長とrecA発現量の解析を行っている。今後1細胞長期培養系を用い、強いrecA発現が世代をまたいで娘細胞に引き継がれるかを検証するとともに、伸長細胞を分取してDNA配列変化の有無を精査し、表現型可塑性に伴う遺伝情報の変化(進化)が起きているか検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度(2年目)には、単細胞生物シアノバクテリアの実験を経験している特任研究員を雇用することができたので、1細胞培養計測系を使ったデータ測定が飛躍的に進行した。初年度平成24年度に雇用していたRAの院生が自分本来のテーマに集中したいとのことで実験を離れて業務に穴が開いてしまい、それを補うべく嶋田研で博士学位を取得した特任研究員を雇用して研究が再スタートしたが、この特任研究員も新たな大型プロジェクトの特任研究員に使用されたために、この研究課題に対して決まった院生または特任研究員が不在の状態が生じてしまった。しかし、H25年5月に別の独立行政研究機関から特任研究員を雇用することができたので、ようやく研究体制が整備されたのである。これにより、ストレス環境下におけるrecA遺伝子の発現の解析が大いに進み、recAを強く発現する細胞は、細胞サイズの大きな伸長細胞であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
変動環境下での大腸菌内で発現するSOS遺伝子について、プロモーター活性を蛍光シグナルを利用して調べた結果、増殖に伴い、一部の細胞において、SOS応答とDNAの組み替えに関わるrecA遺伝子が強く発現することを確認した。またrecAを強く発現する細胞の多くは細胞サイズの大きい伸長細胞であることも確認した。これらの結果から、細胞の密度増加とともにrecA高発現細胞が増えることに着目し、培養開始後からの時間経過に従ったクローン細胞を捕集し、細胞伸長とrecA発現量の解析を行っている。今後は、1細胞長期培養系を用い、recA発現の強さが世代をまたいで娘細胞に引き継がれるかを検証するとともに、伸長細胞を分取してDNA配列変化の有無を精査し、表現型可塑性に伴う遺伝情報の変化(進化)が起きているか検証する。また、栄養条件について環境に揺らぎを与えて、変動する栄養条件においての大腸菌のrecA遺伝子の発現パターンを観測したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
3月に発注した消耗品の納品が3月中に行われず、4月以降になってしまったため。 注文した消耗品を購入し、研究に活用する。
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