研究課題/領域番号 |
24657016
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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研究分担者 |
藤嶽 暢英 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50243332)
金城 和俊 琉球大学, 農学部, 准教授 (30582035)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マングローブ林 / 土壌圏炭素 / 炭素循環 / 腐植 |
研究概要 |
本年度は、まず吹通川の河川支流上部と支流下部の二カ所のマングローブ林(オヒルギ林及びオヒルギ-ヤエヤマヒルギ混交林)においてプロットを設置して、毎木調査と土壌呼吸の測定を行った。支流上部の森林では樹高10mを超えるオヒルギが主に優占する林内にヤエヤマヒルギがパッチ状に存在するが、支流下部の森林では河川からの距離によって帯状分布が見られ、河川に近い場所ではヤエヤマヒルギが、河川から遠い場所ではオヒルギが優占していた。二つの林分で、赤外線ガス分析機を用いたクローズドチャンバー法で4シーズンの土壌呼吸速度を測定した。その結果、干潮時のオヒルギ林と混交林の平均呼吸速度は、マングローブ林での先行研究と同様に、通常の陸上生態系に比べると極端に低い値(約150 mgCO2 m-2 h-1)であった。この事は干潮時でも地下水位の高さが還元的な環境を作り、微生物活性を抑えていることを示唆している。一方で陸上生態系で指摘されているような地温と土壌呼吸の指数関数的な関係性は認められなかった。そこでオヒルギ林において干潮から満潮にかけて断続的に土壌呼吸と環境要因の測定を行った結果、潮位の上昇にともなって、土壌呼吸の減少(207~85 mgCO2 m-2 h-1)が確認された。これらの結果は、マングローブ林の土壌炭素蓄積の要因として、土壌有機物の分解にともなうCO2放出(土壌呼吸)量の低い事が関与していること、空間的なスケールアップのためには温度よりも潮汐の変動要因が大きいことを示している。またさらに二つの林内で深度1mまでの土壌をサンプリングして、土壌圏炭素プールの測定を行い、このマングローブ林内で非常にたくさんの有機物が蓄積していること、及び深い深度でも炭素濃度が高いことを確認し、腐植物質の質的な分析を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1)マングローブ林内での有機物生産と分解、2)マングローブ林内での土壌腐植の質と堆積プロセス、3)川を通した流域レベルでの有機物動態の三つの側面から研究を行い、マングローブ林の巨大な土壌炭素蓄積に与える,森川海の連環と微生物生物学的・土壌科学的プロセスの影響の定量的評価を目指している。本年度は1)については、マングローブ林内での有機物生産と分解の定量のために、二カ所のマングローブ林でプロットを設置して、特に土壌呼吸量の季節的な変化及び、潮汐に対する影響評価に関する調査を行った。また来年度以降に、森林の純一次生産量を推定するためにプロット内の1.3m以上の全個体について毎木調査を行い今後成長量を継続調査する。また、森林内の枯死脱落量の推定のためのプロット内にリタートラップを設置して継続調査している。2)については、二つの林分で土壌の表層から1mまでの土壌を採取して、土壌試料の調整を行うと共に、C/Nアナライザーを用いた全炭素・全窒素量の測定を行った。3)については、河川水中のDOCの動態を推定するために、河川の下流部から上流部までの複数の地点で河川水を採取してDOC分別定量法を用いた特徴付けを行ったところである。河川における流状態有機物やリターなどの、DOC以外の大型の有機物動態については、測定手法の検討を行っているところで、直接的な調査を着手していないところもあるが、全体としては、ほぼ交付申請書の平成24年度の研究実施計画通りに研究が進められた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、1)林内の有機物生産と分解、2)林内の土壌腐植の質と堆積プロセス、3)流域レベルでの有機物動態の三つの側面から研究を行い、マングローブ林の巨大な土壌炭素蓄積に与える,森川海の連環と微生物生物学的・土壌科学的プロセスの影響の定量的評価を目指している。1)については、本年度はマングローブ林の生態系純生産量(NEP)の推定を目指して主にオヒルギ林を対象とした研究を継続する。森林の年間純一次生産量(NPP)の推定のために、樹木直径成長量とリタートラップによる枯死脱落量の測定を継続する。また地下部細根動態(生産量と枯死)は森林のNPPの大きな部分を占めるので、細根に関する研究を開始する。特に深度別の細根量の測定とサンプリングを行ない、細根プールの定量と共に、同位体を用いた細根のターンオーバーの研究を行う。また、分解呼吸については自動開閉式チャンバーを用いて連続的な土壌呼吸速度の測定を行い、呼吸速度に対する潮汐と地温の関係を明らかにし、呼吸速度に対する各々の影響力や年間値へのスケーリングアップの方法について議論する。2)については、昨年度に調整した土壌サンプルについて、その土壌有機化学的な質について分析を行う。各土壌試料は風乾後、吸着力・分解抵抗性の違いを反映した分別可能な異なる抽出溶媒を用いて逐次抽出後、全有機炭素計測機を用いて定量する。また、安定同位体比の測定により、汽水域環境での、土壌への堆積プロセスとその起源分析を行う。3)については、昨年度サンプリングした水からDOC分別定量法を用いて物理化学的性質の異なる3画分に分別して、量・質を明らかにする。また河川における流量調査とリターなどの大型の有機物の動態に関する現地調査を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、特にマングローブ林内で土壌の表層から1mまでの土壌を採取して、土壌試料の調整を行った。大部分の土壌サンプルについては、試料調整を終了し全炭素・全窒素量の測定を行ったところである。しかし、サンプリングした土壌の量が多かったために、一部のサンプルについては試料調整が終了していないために、予算の一部について繰り越しが生じた。これらの予算については、次年度開始直後の継続的な土壌の試料調整と迅速な分析の開始のために利用される。
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